脳室周囲白質軟化症(PVL)は、早産児脳障害の一つで脳性麻痺の主因であり、未だ有効な治療法は確立されていない。 PVLの主病態は低酸素・虚血や感染による未熟なオリゴデンドロサイト(preOL)の細胞死とその後の分化障害と推測されている。 PVLに対する治療法の開発を目的として、平成27年度は、我々のグループは低温療法が低酸素・虚血に対するpreOLの細胞死を軽減することをこれまで報告してきた。 一方、PVLの発症部位である脳白質にはpreOLだけでなく、グリア細胞の一つであるミクログリア(MG)が生理的に集積して脳発達に寄与している。病態下ではMGが炎症性サイトカインや脳保護因子を産生する機能が明らかになり、PVLに至る過程を修飾している可能性が報告されている。 今回、低温療法のpreOL保護効果にMGを介した仕組みがあるかどうかPVLのラットモデルにMGを除去できる薬剤クロドロネート含有リポソーム(Clo-lipo)を用いて調べた。 生後4日目SDラット右側脳室にリポソームを注射した。48時間後の生後6日目に低酸素虚血処置(左総頸動脈を結紮離断、酸素濃度6.0% 30分間暴露)を施行した。また、低酸素時期に合わせて、低体温(31±1.0℃)を導入した。処置5日後、ミエリン塩基性蛋白(MBP)の発現を指標として白質傷害の程度を組織学的に評価した。 リポソーム脳室注射48時間後、Clo-lipo群はコントロールリポソーム(Con-lipo)群と比較し、Iba1陽性細胞の数が有意に減少していた。低酸素虚血処置5日後、Clo-lipo+低体温群では、Con-lipo+低体温群と比較して、MBP染色が有意に脱落した。Clo-lipo群(MG除去群)で低温療法の保護効果が低下したことより、(1)低温療法はMGに作用すること、(2)MGが低温下で白質保護的に機能する可能性が推測された。
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