研究課題
中枢神経におけるグリコーゲンの含量は骨格筋、肝臓などに比較するとその量は非常に少ない。従って脳におけるグリコーゲンの役割についてはその意義について不明な点が多い。しかしながら近年脳におけるグリコーゲンはヒトが低酸素状態に陥った時に、嫌気解糖の働きで緊急時の重要なエネルギー供給の役割をしていることが明らかにされてきた。一方中等度以上の新生児仮死では同程度の仮死を経験した児でも、その神経学的予後に差が見られる場合が経験的に見られる。つまり重篤な神経後遺症を残すものから正常発達をするものまで一種のスペクトラムとなっている。本研究ではその原因として脳に発現している特異的脳型グリコーゲンホスホリラーゼ(PYGB)に着目し、新生児仮死に遭遇した児で中枢神経後遺症(脳性まひなど)を残した症例と、正常発達をした症例でPYGB遺伝子多型あるいは遺伝子変異に違いが無いかとの仮定から関連を検討した。現在28例の症例の解析がほぼ終了しているが、後遺症を残した群と正常群ではある一定の遺伝子型の特徴が見い出されている。なお代表研究者が研究施設を異動したことにより研究の推進が一時期停滞したが、研究期間の延長が認められたことから症例の蓄積をさらに行い、統計的な検討も含めPYGB多型と神経後遺症の予後の関連を明らかにする予定である。また周生期の検査所見に若干の追加項目を設定しその関連性も検討する予定である。本研究でPYGB遺伝子多型と神経後遺症予後との関連が明らかになり、新生児仮死に関わる脳障害の発生起序の一部に脳型グリコーゲンホスホリラーゼの関与が判明すれば、ホスホリラーゼの活性促進因子であるビタミンB6を新生児仮死児に早期に投与することで脳障害の予防を行い、予後改善に役立つ可能性があるのではないかと考えられる。
3: やや遅れている
(1)代表研究者の異動(自治医科大学→常葉大学)により研究環境の整備、大学内の倫理委員会申請手続きなど一時的な研究活動の停滞があったため本研究課題の進捗状況の遅れが生じた。(2)本研究では現在28例の症例について分析が終了しているが統計学的に分析するためには更なる症例の蓄積が必要である。(1)で述べたように研究活動の遅延があったためsh号令の蓄積が停滞した。今後は更なる症例の蓄積に努める必要がある。そのため研究機関の延長申請を行った。なお現在のところ後遺症を残した群と正常群では一定のPYGB多型の傾向が見られている。さらに周生期の臨床検査データと遺伝子多型との関連についても若干追加検査項目を加えて分析を進め、予後因子を規定する病態を同定する予定である。
本研究のゴールは新生児仮死における児の神経学的予後についてPYGB遺伝子多型を用いたバイオマーカーを同定することである。特にリスク児の場合はホスホリラーゼ酵素の活性化因子であるビタミンB6を補充することで、神経学的予後の改善に寄与するのではないかと推定している。本研究によりPYGB遺伝子多型との関連が示された場合は、神経学的後遺症のバイオマーカーと位置づけ、簡便な検査システム(PYGB多型の同定)を開発し臨床面での応用ができるよう検査システムを構築する。
研究代表者が平成26年9月1日付けで自治医科大学から常葉大学へ異動したため、平成27年度の研究計画を遂行するのに遅滞が発生した。異動先での研究環境の整備、倫理委員会の申請、機材の発注などに時間を要したため、研究が軌道に乗ったのは平成27年度の後半からであった。従って、本年度への研究の延長を申請し受理されている。以上の理由から最終年度である平成27年度の研究費の使用額が少なく研究延長年度(平成28年度)への繰越となった。
①症例の更なるリクルート:現在の症例数に加え後遺症を残した群、正常群でそれぞれ20例ずつを分析できるように努める。②PYGB遺伝子多型分析に加え、他の解糖系に関わる遺伝子群の相互関係を合わせて追加検討する。③周生期検査所見と遺伝子多型の関連性について統計学的に検討する。④唾液中DNA測定、血清が保存されている症例についてはNOの測定も追加研究として行う。以上①~④を計画している。本研究では周生期検査とPYGB遺伝子多型との関連にも注目している事から、重要なマーカーとして④の追加周生期マーカーを合わせて分析する事とした。そのため次年度では測定用に蛍光分析機器(約170万円)の導入を計画している。本研究の成果として新生児仮死における脳の脆弱性をもつ個体のバイオマーカーの抽出につながることが期待される。
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