研究実績の概要 |
遺伝子発現を制御するエピジェネシスに注目が集まっているが、今回ヒストンアセチル化(HDAC)に着目し、全身に線維化をもたらす全身性強皮症について、HDAC阻害剤であるSAHAがもたらす効果について検討した。まず強皮症マウスモデルであるTSK/+マウスならびにC57BL/6マウスにSAHAを25,50,100mg/kg連日4週間腹腔内投与し、背部の皮膚を採取し硬化皮膚を測定するなどして組織学的評価を行った。その結果、C57BL/6マウスと比較してSAHAはTSK/+マウスで特異的に有意差を持って皮膚硬化を抑制しえなかった。また、マウスより採取した血清を用いて線維化に関与するとされるTGF-βなど各種サイトカインを検討したが、2群間で有意な差は見られなかった。原因として、SAHAの至適濃度や投与方法を検討する必要があると考えた。まずはin vitroにおいて正常皮膚線維芽細胞とヒト強皮症皮膚組織から抽出した線維芽細胞をサンプルとし、MTSアッセイにてSAHAの細胞毒性を検証した。その結果、いずれの細胞においてもSAHAは濃度1.0-1.2μM、投与時間24時間が至適であると判断した。次に同条件で正常線維芽細胞とヒト強皮症皮膚組織から抽出した線維芽細胞を培養後、mRNAを回収しrealtime-PCRを行った。検討項目として、COL1A2を中心に細胞外マトリックスの沈着を検討したが、複数の細胞株においてSAHA投与前後で発現の変動に変化は見られなかった。また、サイトカインに関してもSAHA投与前後でほぼ変動に差はみられなかった。原因として、SAHAはTrichostatinAなどの他のHDAC阻害剤と比較してHDACを抑制する効果が弱いことや、強皮症線維芽細胞に対して特異的に作用しないためではないかと推察された。今後は、SAHAの濃度条件の再検討に加え、他のHDAC阻害剤を用いて全身性強皮症の線維化が抑制しうるかを検討すべきと考えた。
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