研究課題/領域番号 |
25461690
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金田 眞理 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70397644)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | mTOR / オートファジー / 精神神経病変 / 色素異常 / 結節性硬化症(TSC) / メラノサイト |
研究実績の概要 |
精神神経病変と色素異常症におけるmTORを介したオートファジーの共通のメカニズムの解明が本研究の目的である。本目的達成のために、精神神経病変と色素異常症の両方を呈する結節性硬化症(TSC)を前述の異常を検討するモデル疾患と考え、TSCの色素細胞を用いて、mTORや、オートファジーの異常を検討した。 まず、ひと正常メラノサイトをsi-TSC1, Si-TSC2でノックダウンし、それら、TSC1-, TSC2-モデルメラノサイトを用いて、メラニン顆粒の産生量を検討した。ついで、メラニン産生関連因子、MITF、TYR、TRP1、DCTの発現量や、オートファジー関連因子、LC3, p62, Atg7 などの発現量の変化もメッセンジャーレベルと蛋白レベルの両方で検討した。その結果、TSC-モデルメラノサイトでは、メラニン顆粒の産生が低下しており、TSC1/2やMITFの低下と同時にp-mTORやp-70s6Kの増加、オートファジー関連因子の異常が確認できた。また、電子顕微鏡を用いた、TSCモデルメラノサイトと正常コントロールのメラノサイトにおけるメラノソームの形態や数の変化を検討し、TSC―モデルメラノサイトでは成熟したメラノソームは存在するが、メラノソームの数が減していることを確認した。 次いでTSC患者の白斑部を光学顕微鏡、電子顕微鏡を用いて組織学的に検討した。その結果TSC患者組織の白斑部のメラノサイトではモデルメラノサイトと同様に成熟したメラノソームを認めるが、メラノソームの数にばらつきがあることが確認できた。 さらに、臨床試験としてTSCの患者の白斑部を、ラパマイシン外用薬で治療し、白斑が治癒した患者の治療前後の白斑部を光学顕微鏡、電子顕微鏡を用いて検討し、TSC白斑部のメラノサイトに認められる異常が、ラパマイシンの外用治療により軽快することも確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデルメラノサイトを用いて神経異常と色異常を呈するモデル疾患(TSC)のメラノサイトにおけるメラニン産生のメカニズムについて検討し、モデルメラノサイトではmTORの活性化やオートファジーの異常が認められることを確認した。ついで、TSC患者の白斑部の組織を用いて、患者の白斑部のメラノサイトにおいても、モデルメラノサイトでおこっているのと同様の異常が認められることも確認した。また、これらの異常部ではmTORの活性化やオートファジーの異常が認められ、さらに、これらの異常がmTORの阻害剤であるラパマイシンの治療で正常化することも確認した。従って予定していた実験はほぼ予定通り進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
神経細胞やグリアに対してもメラノサイトに施行したのと同様に、si-TSC1, Si-TSC2を用いてノックダウンし、TSC1-, TSC2-モデルアストロサイトやモデル神経細胞を作成し、それらを用いて、mTORや70s6K、オートファジー関連因子、LC3, p62, Atg7 などの発現量の変化をメッセンジャーレベルと蛋白レベルの両方で検討する。神経細胞では他の細胞に比較してsi-TSC1, Si-TSC2の導入率が悪い可能性があり、その場合にはPC-12細胞を用いて、モデル細胞を作成し、前述した検討を行う。そのうえで、これらのモデル細胞と、正常コントロール細胞をTSC1、TSC2、LC3、p62、p-mTOR、p-70S6K などの抗体を用いて、免疫組織科学的にそれぞれのファクターの分布や増減を検討する。同時に、これらのモデル細胞と、正常コントロール細胞を、電子顕微鏡を用いて観察し、形態の変化を検討する。 TSCモデルマウスの脳の切片を、光学顕微鏡、電子顕微鏡を用いて構造を組織学的に検討する。更にモデル細胞と同様にTSC1、TSC2、LC3、p62、p-mTOR、p-70S6Kなどの抗体を用いて、免疫組織科学的にそれぞれのファクターの分布や増減を検討する。ただ、TSCモデルマウスはヘテロであり、明らかな表現形の異常が認められない可能性があり、皮膚や神経、グリア、色素細胞に特異的なTSCのコンデイショナルノックダウンのマウスを用いて検討する。現在Atg5やルビコン、MITF、GFAPなどに特異的なTSC1、TSC2のコンデイショナルノックダウンのマウスを作成中であり、それらができれば、そのマウスを用いて、前述した、色素細胞や、神経細胞に特異的な変化を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究における目的は、mTORC1とオートファジーを介した、精神神経症状と色素異常に共通の機構解明し、ひいては治療法のない色素異常と精神神経病変に対する共通の治療法を確立することである。 今年度は神経細胞やグリア細胞にTSC1,TSC2のsi-RNAを導入してTSC1、TSC2のモデル神経細胞、グリア細胞を作成し、それら細胞を用いてオートファジーの異常の有無を検討する実験を行う予定であったが、予想外に導入率が悪く実験方法の検討、変更が必要になった。また、ヘテロのTSC1、TSC2マウスでは目的とする皮膚病変が得られず、conditional なTSC1,TSC2ノックアウトマウスの作成を行っていたが予想以上に時間がかかり、マウスが完成しなかったため、次年度にも引き続き実験が必要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度は、色素細胞、神経、オートファジー関連因子に特異的なTSC1,TSC2ノックアウトマウスの作製を完成させ、それらの病変を光学顕微鏡、電子顕微鏡レベルで組織科学的に検討すると同時に、ラパマイシンなどmTORC1阻害剤投与による病変軽快の有無を検討する。 さらに、上記動物由来の病変部細胞を分離培養して、オートファジー関連物質の変化が認められるかをリアルタイムPCR、ウエスタンブロッティング、更に免疫電顕を用いて検討すると同時に、ラパマイシンなどmTORC1阻害剤投与による細胞の異常のレスキューが可能かどうかを検討する。
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