研究実績の概要 |
がん細胞の遠隔転移には間葉-上皮移行(MET)が関わるという報告がある。すなわち、循環血から肺等の実質臓器への転移には、 循環血内でがん細胞が集団(クラスター)を形成していて、それらの細胞は上皮細胞マーカーである E-cadherin (CDH1), gamma Catenin (JUP), Cytokeratin 14 (KRT14)を発現しているという。ヒト有棘細胞癌OSC-19に再プログラミング因子を導入して樹立した細胞(Reprogramming factors Introduced Cancer cells, RICs)は、上皮細胞マーカーの発現が親細胞に比べて増加しているが、この中にはCDH1, JUP, KRT14が含まれる。従って、再プログラミング因子を導入してMETが誘導された細胞では遠隔転移が増加する可能性が生じた。この問題に対して、ヌードマウスの尾静脈より腫瘍細胞を移植して、実質臓器内での腫瘍形成能を検討した。 OSC-19親細胞あるいはRICsを2×105 cells /mouseとして尾静脈より4匹のヌードマウスに移植した。週3回の体重計測および肉眼的な観察により、腫瘍の増大による全身状態の悪化をモニターした。移植後、47日までに体重の減少の他、肉眼的な異常は確認出来なかった。剖検では胸部および腹部主要臓器に腫瘍の増大は認められなかった。組織学的な検索においても、これら臓器に腫瘍細胞は確認出来なかった。さらに、肺組織中のmicro metastasis確認するために、OSC-19親細胞とRICsで同等に発現することが明らかになっているヒトサイトケラチン18 mRNAを定量的RT-PCR法を用いて検出を試みた。結果として、親細胞を移植したヌードマウス4匹中2匹にヒトサイトケラチン18の発現を認め、一方RICsを移植した全てのマウスでヒトサイトケラチン18の発現は確認出来なかった。 昨年までの研究成果である舌内移植による局所リンパ節転移モデルに加えて、遠隔転移モデルにおいても、腫瘍細胞への再プログラミング因子導入によるMET誘導は、腫瘍悪性度を減弱化することが示された。
|