研究課題
本研究では、アトピー性皮膚炎(AD)および瘙痒性皮膚疾患において、コラーゲントリペプチド(CTP)および低分子ヒアルロン酸の効果をヒトおよび培養細胞を用いて明らかにすることを目的とした。さらに、慢性瘙痒性皮膚疾患におけるペリオスチンと神経表皮内神経伸長に関わる因子との関係について明らかにすることを目的とした。また、ADの病態関与する新たなバイオマーカーとして患者血液中のSCCAを測定した。CTPがケラチノサイトに及ぼす効果を明らかにするため、培養ケラチノサイトにCTPを炎症性サイトカインやTh2サイトカインとともに添加し、培養細胞の炎症性サイトカインや神経成長因子(NGF)および神経反発因子であるセマフォリン3A(Sema3A)産生に及ぼす影響を検討した。その結果、CTPは炎症性サイトカインと同時に添加することにより、TARC, MDS, TSLPのmRNAの発現を減弱させた。一方、NGFおよびSema3A産生には有意な影響はみられなかった。ヒアルロン酸のADにおける効果は一定の傾向は出ているものの、有意な差は現在のところ見られておらず、さらに追加実験を試行中である。ADの病態におけるペリオスチンの役割についての検討:ヒト皮膚線維芽細胞と表皮細胞をリコンビナントペリオスチンで刺激しSema3AとNGFの発現を培養条件を変えて検討した。その結果、線維芽細胞ではSema3Aの発現の低下とNGFの発現の亢進をみた。健常人末梢血を用いた実験では、ペリオスチンの刺激でIL-18とTNF-αの発現が上昇した。以上の結果はペリオスチンが皮膚のかゆみ神経の伸長に影響を及ぼすとともに免疫細胞に直接作用することによりADの炎症お悪化させる可能性を示唆した。ADの病態におけるSCCの役割とバイオマーカーとしての異議についての検討:血液中のSCCA1, SCCA2を測定することにより、皮膚免疫学的染色結果と合わせて血液中のSCCAがADの病勢を反映することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
アトピー性皮膚炎の難治化おけるペリオスチンの関与については患者血清や皮膚を用いた結果が既に英文論文となったが、急性増悪との関係について論文を準備中である。ペリオスチンの作用に関するin vitroの実験は順調に進んでおり、かゆみ関連因子やサイトカイン発現との関係を証明しつつある。達成度は予定していた研究以上に進行している。ペリオスチンと同様に難治性のAD患者で発現が亢進しているSCCAについては、ADの病態との関係について、ほぼ検討がおわり、26年度の研究皮膚科学会他で報告た。ヒト皮膚組織の免疫組織学的検討のための標本が不十分で有り、現在それらを収集し、染色が完成し次第、論文を作成して投稿予定である。コラーゲントリペプチドの効果については培養ケラチノサイトを用いた研究が順調に進行中である。AD患者への投与は明らかな効果が見られなかったが、投与期間が短かったことが問題と考え、3倍に延長して効果を見ている段階である。ヒアルロン酸のADにおける効果についてはさらに追加実験を施行中である。セマフォリン3Aノックアウトマウスを用いた実験では、マウスを引き続き観察しているものの、掻破性の病変は見られてもAD様の皮疹は明らかではなく、現在まで皮膚の十分な検討は行われていない。
ペリオスチンの研究は現在トランスフェクションにより強制的にペリオスチンを発現させた細胞を用いてかゆみに関する因子(NGF, Sema3A)とペリオスチンの関係について実験準備を進めている。また、ペリオスチンのケラチノサイトへの影響を、添加するサイトカインなど培養条件を変えて検討する。コラーゲントリペプチドの効果についてはケラチノサイトに加え、培養線維芽細胞を用いた実験に発展させる予定である。また、効果発現の機序解明の一環として、シグナル伝達系の解析を行う予定である。AD患者への投与の効果については引き続き投与期間を延長して検討する。SCAについてはなお、小児のSCCAの値について、より多くの症例を集められるかを検討中で有り、場合によってはよりレベルの高い論文作成を目指す。ヒアルロン酸の単独塗布の効果については25年度にAD患者でコントロールと有意な差は見られなかったため、他の成分との組み合わせを現在検討中である。セマフォリン3Aノックアウトマウスを用いた実験では、マウスを引き続き観察しているものの、掻破性の病変は見られてもAD様の皮疹は明らかではなく、二次的に感作等を加える事による影響をみる必要がある。
試薬等の注文の端数が出たために数千円単位の残金が出た。
次年度予算と合わせて、細胞培養試薬、サイトカイン測定キット、論文投稿費に使用予定である。
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