研究課題/領域番号 |
25461712
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
池田 志斈 順天堂大学, 医学部, 教授 (40193198)
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研究分担者 |
岡 晃 東海大学, 付置研究所, 講師 (80384866)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 円形脱毛症 / 遺伝子 / ノックアウトマウス / ノックインマウス |
研究実績の概要 |
円形脱毛症は自己免疫性疾患と考えられており、ステロイド内外用にて治療されているが、副作用により治療に難渋することがおおい。さらに治療中止により容易に再燃が生じ、患者のQOLが著しく障害される。 以前より我々は、多症例の患者における特にマイクロサテライトマーカーを用いたゲノム相関解析により、本症の疾患感受性遺伝子がHLA領域、特にHLA-Cの近傍にあることを報告してきた。昨年は、同領域のrisk haplotypeをnext generation sequencerを用いて解析し、疾患感受性遺伝子とそのnon-synonymous変異を同定した(データ未発表)。 本年度は、1)同遺伝子の全身ノックアウトマウス、2)同遺伝子の毛包特異的ノックアウトマウス、3)同遺伝子non-synonymous変異のノックインマウスの3系統を作成できた。即ち、1)の全身ノックアウトでは、マウスES細胞に転写中止変異誘導性の相同組み換えを惹起し、それをネオマイシン耐性セレクションにより選別し、まずキメラマウスを作成した。その後F1を掛け合わせて同遺伝子ヘミKO、そしてホモKOマウスを作成した。2)の毛包特異的ノックアウトでは、マウスES細胞にCre/loxP切断性のコンストラクトの相同組み換えを惹起し、それをネオマイシン耐性セレクションにより選別した。その後キメラマウスとその選別を行い、Cre/loxP切断性のコンストラクトを含むマウスとkeratin-6 Creトランスジェニックマウスを掛け合わせて、毛包特異的ノックアウトマウスを作成した。また3)のマウスでは、CRISPR/Cas9 システムを用いて、マウスの本遺伝子ホモログの本non-synonymous変異をゲノムエディティングし、ノックインマウスを作成した。 現在は各モデルマウスの解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述の如く、1)円形脱毛症の疾患感受性遺伝子座の同定、2)疾患感受性遺伝子とそのnon-synonymous変異の同定、3)3系統の遺伝子改変マウスの作成に成功している。 1)の遺伝子座の同定は米国のグループにより既に行われているが、その相対危険度(OR)は2を超えるものはなく、我々の研究ではOR: 3.41であり、その遺伝子座がほぼ間違いないことを世界で初めて報告した。また世界の円形脱毛症遺伝子のGWASを行っているグループからは未だ疾患感受性遺伝子同定成功の報告はない。これは一重に、欧米ではSNPを用いたGWASが行われているためもともと遺伝子多型が少なく統計学的識別が困難であるためと思われる。一方我々は邦人ゲノム情報を基にマイクロサテライトマーカー地図を作製して本研究を行っており、その遺伝子多型の高度さにより、強い相関が得られたわけである。従って欧米では、弱い相関がみられたインターフェロンγ系のJak阻害剤を用いた臨床研究が行われているだけである。2)の疾患感受性遺伝子とそのnon-synonymous変異の同定は世界で初めてのものである。またゲノム相関解析を用いて疾患感受性遺伝子とその遺伝子変異を同定した報告は極稀であり、本研究は大変重要であると思われる。この理由は、本研究が上述のマイクロサテライトマーカーを用いているためであり、多くのHLA-C領域のhaplotypeの中から、non-synonymous変異を含むrisk haplotypeを識別することが可能であったため、最終的に疾患感受性遺伝子の同定が出来たと考えられる。3)の遺伝子改変マウス作成は、通常のシステムだけでなくCRISPR/Cas9 システムを用いて、ゲノムエディティングによりマウスの本遺伝子ホモログの本non-synonymous変異を導入したものであり、本法は大変新しいものである。 従って「(1)当初の計画以上に進展している」と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
1)遺伝子改変マウスの当該遺伝子の発現につき検討する。 A)前述の如く、同遺伝子はヘテロのnon-synonymous変異であるため、まずノックインマウスの出生から成長そして毛髪成長に関して如何なる表現系を示すか検討する。また多くの円形脱毛症は生下時からの毛髪には問題がないため、マウスの2次毛成長サイクルの性状についても検討する。更に円形脱毛症患者ではインターフェロンγ系が炎症に関与する可能性が臨床研究などから考えられているため、これらマウスに種々のサイトカインを投与してその影響につき検討する。また各ヘアサイクルにおける同遺伝子発現についても検討する。B)ヒト円形脱毛症の脱毛部と非脱毛部においても同遺伝子の発現や関連遺伝子の発現について検討する。C)さらに全身あるいは毛包特異的同遺伝子ノックアウトを用いて解析を行う。驚くことに、同遺伝子全身ノックアウトマウスは正常に生まれて来ているため、今後は出生から成長そして毛髪成長に関して如何なる表現系を示すか検討する。また多くの円形脱毛症は生下時からの毛髪には問題がないため、マウスの2次毛成長サイクルの性状についても検討する。更に円形脱毛症患者ではインターフェロンγ系が炎症に関与する可能性が臨床研究などから考えられているため、これらマウスに種々のサイトカインを投与してその影響につき検討する。 2)HLA以外の候補遺伝子座として、連鎖解析により、ch10、cho16、ch18に相関の弱い遺伝子座が報告されているので、マイクロサテライトマーカーを用いてそれら部位を解析する。
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