本研究では、天疱瘡患者からクローニングされた抗デスモグレイン(Dsg)抗体のうち、表皮に結合するが、病原性を示さない非病原性抗体に治療分子TRAIL (TNF-related apoptosis-inducing ligand)を結合させた融合タンパク(Px44-TRAIL)を作製し、表皮特異的ドラッグデリバリーシステムの開発を目指している。当初の研究計画では皮膚炎を主な治療対象としていたが、口腔扁平上皮癌(OSCC)において天疱瘡抗原(Dsg3)が高発現していることから、口腔癌をターゲットとした選択的治療モデルの開発の検討を開始した。 口腔癌患者から樹立された40種類のOSCC細胞株のうち、6人の口腔癌患者の原発巣、転移リンパ節に由来する12種類の細胞株を対象として研究を進めた。1種類を除いたすべての細胞株でPx44-TRAILの結合を確認した。Px44-TRAILをOSCC細胞株に加えて1時間インキュベーションした後に洗浄し、結合した治療タンパクのみが作用できる条件でアポトーシス誘導能を調べたところ、10種類の細胞株でアポトーシスが認められた。陰性コントロールである、非特異的抗体を結合させた融合タンパクAM3-13TRAILではアポトーシスは誘導されなかった。以上の結果から、in vitroにおいてはPx44-TRAILのOSCCに対する治療効果が確認できた。
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