研究課題
前年度では関東近郊に在住の約320名の成人サンプルを対象に、環境ストレス(SRRS:Social Readjustment Rating Scale)とうつ症状(CES-D)の交互作用について、全ゲノムワイド(genome-wide association study: GWAS)での関連解析データを用いて関連部位の探索を行った。その結果、染色体10q25に位置するRGS10遺伝子上の多型が全ゲノムレベルで有意(p<5x10(-8))となった。この結果を踏まえて、今年度ではRGS10について、一般企業で働く健常な労働者であるサンプル集団(n=430名)を対象として、ABI社製PRISM 7900HTを用いたTaqMan法で遺伝子タイピングを行い、遺伝・環境相互作用について解析を行った。ストレス指標としては解雇される不安を、うつ・不安の評価にはK6を用いた。その結果、上記で見出された多型において有意な結果が得られた(p=0.015)。上記以外にも、これまでに報告されている、うつ病発症に関与する遺伝子群である、セロトニン・トランスポーター(5HTTLPR)や神経栄養因子(BDNF)などの遺伝子群に位置する多型部位について、上記で収集したサンプル集団(n=430名)を対象として遺伝子タイピングを行った。職場性ストレスについては、ドイツの社会学者Siegristらによって提唱されている報酬不均衡モデル(Effort-Reward Imbalance Questionnaire)日本語版を用いた調査票を使用した(Siegrist,1996)。その結果、予備解析段階ではあるが、5HTTLPRとBDNFと職場性ストレスにおいて相互作用が有意に認められた。以上の結果を国際誌に投稿準備中である。
2: おおむね順調に進展している
うつ病の全ゲノム対象の関連解析を行い、遺伝・環境相互作用解析を行ったところ、関連する遺伝子を見出し、別のサンプル集団においても相互作用に有意な結果を得た。上記の結果をもとに、次年度の環境ストレスとメチル化変化量の関連解析につなげることができるため、当初予定していた研究目的を達成したといえる。
遺伝・環境相互作用については、生涯変化のない遺伝配列上の個人差(多型)と環境ストレスとの相互作用だけではなく、遺伝配列に変化はないが、環境ストレスによってDNAやその構造を変化させ、遺伝子の働きを就職するエピジェネティックス(メチル化)との関連が報告されている。そこで、うつ病と関連する遺伝子候補部位について一部サンプル(n=50)を用いて遺伝子メチル化変化量を調べ、ストレスやうつ病に関連する遺伝部位の解析を進めていく。当初の研究計画の変更はない。
概ね予定通りの予算使用となっているが、当初予定していた研究結果報告の論文投稿準備中であり、英文雑誌掲載料を前倒し支払い請求を行ったが、今年度での論文受理とならなかったため。
上記については次年度に繰り越しのうえで、投稿受理費用として使用する予定としている。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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