研究実績の概要 |
最終年度は様々なサブ解析を行い、全体の結果とともにその内容をSchizophr Res. 171(1-3):225-32. 2016で報告した。Cheonら(2011)報告よると、クロルプロマジンなどの抗精神病薬の投与により脳内でのアラキドン酸の取り込み率やターンオーバーが低下することが知られているが、本研究において抗精神病薬の投与されていた統合失調症患者(n=83)と非投与群(n=12)で脂肪酸を比較してみた。その結果、総n-6多価不飽和脂肪酸(以下PUFA)(すなわちリノール酸+エイコサジエン酸+ジホモγリノレン酸+アラキドン酸+ドコサテトラエン酸の合計)のみで、統計学的に有意に高値を示した。さらに、クロルプロマジン換算投与量と総n-6 PUFAとの関連を検討したが特に有意な相関関係は認められなかった。 以前より、末梢血PUFA(特にn-3 PUFA)は自殺完遂(Lewis, 2011)や自殺企図(Huan, 2004)とに関連があることが指摘されている一方で、死後脳研究(Lalovic, 2007、McNamara, 2009)では関連がないとされる報告もあり、一致した見解は得られていない。そこで今回、統合失調症の有無にかかわらず、自殺が死因の45名とその他143名を比較したところ、自殺者でリノール酸、アラキジン酸、ドコサペンタエン酸が低下しており、それに対してn-6/n-3比、エルカ酸、ドコサテトラエン酸では高値を示した。これらの意味するところは今後の検討が必要であるが、いずれにしても従来報告されていた末梢血中のn-3低下とは異なるが、死後脳研究の報告とは合致する結果であった。 今回のサブ解析の結果より、脂肪酸代謝に様々な因子が関与している可能性が示唆されたが、今後はさらにホスホリパーゼなどの酵素の検討も必要であると考えられた。
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