研究課題/領域番号 |
25461730
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山森 英長 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座助教 (90570250)
|
研究分担者 |
安田 由華 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (20448062)
梅田 知美 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (00625329)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 統合失調症 / 全ゲノム関連解析 / ZNF804A遺伝子 / 死後脳 / リンパ芽球 |
研究概要 |
統合失調症は遺伝率80%の多因子遺伝疾患である。近年、何万ものケースコントロールサンプルを用いた全ゲノム関連解析(GWAS)が行われ、統合失調症に関わるいくつかの遺伝子が同定されてきている。そのGWASにおいてZNF804A遺伝子多型と統合失調症の関連が報告されているが、その多型の機能はまだ分かっていない。本研究では、日本人におけるZNF804Aと統合失調症の関連、さらに、そのリスク多型の遺伝子発現やスプライシングに対する影響や、統合失調症にて障害される認知機能、脳構造、神経生理機能との関連についての検討を行うことを目的としている。これまで、我々は、ZNF804A遺伝子多型と視覚性記憶との関連や (Hashimoto et al., Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2010)、ZNF804A遺伝子多型と統合失調症型パーソナリティー傾向等の関連を報告してきた(Yasuda et al., Neurosci Lett. 2011)。本年度は、統合失調症患者の死後脳や統合失調症患者由来のリンパ芽球細胞を用いてGWASで報告されたZNF804A遺伝子多型の、遺伝子発現量への影響を検討した。また、これまで報告のない、ZNF804A遺伝子のスプライシングバリアントを同定し、ZNF804A遺伝子多型のスプライシングバリアントへ発現への影響も検討した。最後に、ZNF804A遺伝子の分子レベルでの機能そのものも、全くわかっていないため、ZNF804A遺伝子をHEK293T細胞に過剰発現させ、発現が変動する遺伝子をマイクロアレイを用いて検討し、発現変動のある遺伝子については、リアルタイムPCRを用いて、発現変動を確認した。更に、リアルタイムPCRで発現変動が確認された遺伝子の蛋白レベルでの変動も確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、ZNF804A遺伝子の発現を、統合失調症患者の死後脳、統合失調症患者由来リンパ芽球を用いて検討した。死後脳については、統合失調症37例、健常者37例のオーストラリア組織リソースセンターのセットと、統合失調症35例、健常者35例のスタンレー医学研究所のセットの2セットを用いた。少なくとも、ZNF804Aの主なtranscriptに、統合失調症、健常者間で発現の差は、2セットとも認めず、また、GWASで報告されたZNF804A遺伝子多型の、遺伝子発現量への影響も、認められなかった(Umeda-Yano et al., Neurosci Lett. 2014)。また、これまで、ZNF804A遺伝子の新たなスプライシングバリアントを同定、その発現を統合失調症患者45例、健常者45例由来のリンパ芽球で検討し、統合失調症において、スプライシングバリアントを発現する人の割合が、健常者に比べ少ない事を見出しているが(Okada et al., Schizophr Res. 2012)、同じサンプルを用いて、ZNF804A遺伝子多型のスプライシングバリアントへの発現への影響も検討し、影響が認められないことを確認した。最後に、ZNF804A遺伝子の分子レベルにおける機能解析のため、HEK293細胞にZNF804A遺伝子を過剰発現させ、変動する遺伝子を、マイクロアレイを用いて解析し、ANKRD1、INHBE、PIK3AP1、DDIT3の発現が増加し、CLIC2、MGAM、BIRC3の発現が減少することを見出した。また、ANKRD1、PIK3AP1、INHBE、DDIT3については、蛋白レベルにおける変動も確認した(Umeda-Yano et al., Schizophr Res. 2013)。これは、ZNF804A遺伝子の蛋白レベルでの発現変動への影響を見た初めての報告である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、統合失調症に特徴的に障害され、統合失調症のリスクに関連するといわれている神経生物学的な表現型である中間表現型とZNF804Aのリスク多型の関連を更に検討していく。中間表現型として、言語性記憶、視覚性記憶、注意・集中力、遅延再生記憶、言語流暢性、ワーキングメモリー、知能などの認知機能、三次元脳構造画像や拡散テンソル画像や安静時機能的MRIなどの脳MRI画像、PPI、NIRSや探索的眼球運動などの神経生理機能を測定したゲノムサンプル(統合失調症400例と健常者600例)を用いる。大阪大学では、包括的な臨床・研究システムとして、統合失調症プロジェクト(SP: schizophrenia project)を行なっている。SPは、統合失調症専門外来と統合失調症入院プログラムからなる臨床部門とそこで得られたリサーチリソース・データベースを用いた臨床研究部門・基礎研究部門からなる。本研究では今後もこのプロジェクトからリクルートしたサンプル、データベースを用いていく予定である。申請者は連携研究者である橋本亮太(大阪大学大学院連合小児発達学研究科子どものこころの分子統御機構研究センター 准教授/同精神医学教室兼任)らと共にSPプロジェクトを運営しており、現在も、入院外来患者をリクルートし、DSMによる診断を行った上で、採血及び各種の中間表現型検査を進めている。上記の実験とともに、サンプル収集もこれまで同様に継続して行い、中間表現型とZNF804Aのリスク多型の関連の検討に用いる。さらに、GWASにおいて既にいくつかの統合失調症に関わる遺伝子多型が報告されていることから、ZNF804A遺伝子リスク多型と他の遺伝子多型との相互作用を検討し、統合失調症の多因子遺伝のメカニズムも検討していく予定にしている。
|