研究課題
統合失調症患者で完全寛解者は2割で、多くの患者は寛解増悪を繰り返し、徐々に社会機能が障害される。統合失調症患者の臨床経過や転帰と遺伝要因の関連について検討した研究は少ない。我々は、統合失調症の発症に関わる遺伝要因が統合失調症患者の臨床経過や転帰に関与するかを検討した。日本人統合失調症患者455名について、初診から5年後時点での臨床全般印象度-重症度(CGI-S)、臨床全般印象度-改善度(CGI-I)、就労の有無を評価し、CGI-Sを重症群(≧4)と非重症群(≦3)、CGI-Iを反応不良群(≧3)と反応良好群(≦2)、就労を非就労群と就労群の2群に分けた。これまでの日本人統合失調症のGWAS解析において強い関連が指摘されたSNPsのうち(池田ら2009)、レプリケーションサンプルにおいても発症リスクの方向性が一致した46SNPsについて、発症リスクアレルが重症群、反応不良群、非就労群に関与しているかをχ2乗片側検定で検討した。また多遺伝子的影響を見るため、46SNPsについてリスクアレル保持数を患者毎に計算し、重症群、反応不良群、非就労群との関係について、年齢、性別、薬剤量、入院日数を共変量とした共分散分析を行った。解析した46SNPsのうち、重症群で3SNPs(rs8116303、rs3129601、rs2623659)、反応不良群で5SNPs(rs10495547、rs2294424、rs2031872、rs3129601、rs2623659)、非就労群で5SNPs (rs2294424、rs8116303、rs6550146、rs2031872、rs2623659)において、発症リスクアレル頻度が有意に高かった。rs2623659は、重症群、反応不良群、非就労群の全てにおいて発症リスクアレル頻度が高かった。またリスクアレル保持数は、重症群、反応不良群、非就労群全てにおいて対照群より多かったが、共分散分析では有意差はなかった。
2: おおむね順調に進展している
500例の臨床症状を収集することは完了することができた。初年度、検討する候補となる20遺伝子のうち10遺伝子の解析を終えることができた。有意になったものは2つと多くなかったが、多遺伝子疾患と考えられる統合失調症の特性を考えると、1SNPの臨床経過に与える影響が少ないことは十分予想されるため、問題の無い結果と考える。そこで、今年度はアプローチを変え、統合失調症のGWAS解析におけるTop200SNPの遺伝子情報が既に得られており、臨床情報と遺伝子情報を組み合わせることで、疾患候補遺伝子が、臨床経過に及ぼす影響についての検討を行ったところ、さらに有意となる遺伝子が見つかり、また、ポリジェニックスコアーも有意傾向を認めた。この結果は現在英文雑誌に投稿し、reviseを行っている段階である。最終年度に予定している、残りの10遺伝子の解析と、さらに、統合失調症の臨床経過の重要な指標である、認知機能障害とそれぞれの遺伝子の関係をみていくことにつなげていく。
現在投稿中の英文誌のreviseを終了することに加え、初年度に残した、10の候補遺伝子の検索を行う。また、初年度に得た成果であるPDE4B遺伝子、今年度に得た成果であるCSMD1遺伝子が、統合失調症の一つの重要な臨床症状である認知機能障害に与える影響を検討する。具体的には、MCCB、BACSという二つの認知機能検査を用いて評価した認知機能に対して、各疾患候補遺伝子が与える影響をTaqman法により検討する。
初年度の経費が節約できたことに加え、今年度に行った成果が得られたため、初年度に残した10の候補遺伝子のためのプローブ代が残った。
今年度に追加して、検討する認知機能検査と、遺伝子の疾患候補遺伝子との関連を検討することに必要な解析のプローブ、試薬のために100万円が必要である。
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