今回の研究では、日本全国を対象として、水道水リチウムと自殺率の関連を、自殺に影響を与える可能性のある種々の要因で補正しながら、検討することが目的であった。日本全国の785市と東京都の23区を合わせた808市・区の水道水をすべて採取し、それらのリチウム濃度を測定した。自殺の標準化死亡比(SMR)を2010年から2014年の5年分算出しその平均値を自殺率として使用した。 なお、自殺に影響を与える可能性のある種々の要因は2015年に施行された国勢調査の確定値の発表を待たねばならず、現時点で未発表のため、この報告書へは反映させることはできない。代替法として、全国を8地方(九州、四国、中国、近畿、中部、関東、東北、北海道)に分けて、それぞれの地域に属するか否かの独立変数(属する=1,属さない=0)を立てて、重回帰分析に投入した。従属変数としては、男女込みの自殺率、男性のみの自殺率、女性のみの自殺率として、それぞれを説明する要因として、各市・区の水道水リチウム濃度、8地方、水道水リチウム濃度と各地方の交互作用を独立変数として、人口による重み付けをしながら、重回帰分析を行った。その結果、日本全国においても、水道水リチウムは男性の自殺率の低さと有意に相関した。調整済みR2値が小さいので、国勢調査の確定値が発表され次第、自殺の背景要因でさらに補正する必要がある。また、一次レベル(市単位)と二次レベル(地方)レベルの効果を整理するために、今後はマルチレベル解析を導入しながら、今回使用した自殺統計と時期を同じくする社会・経済・気象データの中で自殺率と関連する要因を抽出し、解析結果を補正していく予定である。
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