視覚性記憶に係わる嗅周皮質ニューロンの役割の一端を明らかにすることを目的とした.特に,同ニューロンにおけるカルシウムイオン依存性情報伝達経路の役割の一部について検討を行った. 全ての行動実験および免疫組織学的実験には,Long-Evans系の雄ラットを使用した.また,全ての実験は,宮崎大学動物実験倫理委員会または北海道医療大学動物実験倫理委員会における実験計画の審査・承認のもとで実施した. 行動学的実験では,オペラント箱の側面に設置されたPCモニタ上に二つの視覚刺激を呈示した.ラットは二つの刺激を視覚的に弁別し,刺激の直下に設置されたレバーに正しく反応すると強化子を得ることができる.正刺激・負刺激は試行を通じて一定にし,オペラント条件づけを用いた同時的複式物体弁別課題を習得させた.正刺激と負刺激が二つのうちのどちらのパネル上に表示されるかは,試行毎にランダムとした.一対の視覚刺激についての弁別を習得したラットに対し,二つ目の視覚刺激を用いて弁別を遂行させた.全てのラットは速やかにこの視覚性記憶課題を習得することができた. 前年までに作成していた組織標本を用いて,課題遂行に伴うアネキシンAIIの発現に関する部位局在について免疫組織学的な検討を行った.アネキシンAIIに陽性反応を示す細胞が嗅周皮質を含む関連領域で確認された.しかしながら,課題の遂行と陽性反応を示す細胞数の間には相関が認められなかった.これらのことより,嗅周皮質におけるアネキシンAIIを介したカルシウムイオン依存性情報伝達経路は,視覚性記憶に実質的な関与をしていない可能性が示唆された.
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