研究課題/領域番号 |
25461736
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
近藤 毅 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40215455)
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研究分担者 |
三原 一雄 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30302029)
中村 明文 琉球大学, 医学部附属病院, 助教 (40381222)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 治療抵抗性うつ病 / アリピプラゾール / パロキセチン / エスシタロプラム / 薬物相互作用 / CYP2D6 / ラモトリギン / 自閉症スペクトラム障害 |
研究実績の概要 |
治療抵抗性うつ病への強化療法に用いるaripiprazole(ARI)と併用可能性のある抗うつ薬paroxetine(PAR)およびescitalopram(ESC)との相互作用を検討した。その結果、PAR併用はARIの血漿濃度を1.7倍に有意に上昇させるが、ESC併用は有意な変化をもたらさず、ARIとESCの併用には有意な相互作用がなく安全に併用される可能性が示唆された。また、ARI およびhaloperidol(HPD)の薬物動態に関し、同一個体間における両者の血漿濃度に有意な相関はなく、CYP2D6*10保有者での血漿濃度高値はARIにのみ認められた。以上より、HPDよりもARIの方がその代謝へのCYP2D6の関与度が高く、前述したPARなどのCYP2D6阻害剤の影響を受けやすいと考えられた。 治療抵抗性うつ病34例を対象に8週間のlamotorigine(LTG)強化療法を行ったところ、LTGの定常状態血漿濃度が12.7 μmol/L以上で治療反応性が良好(50%以上の症状改善率)となり、治療反応者の73.3%を占めた。したがって、難治例にLTG強化療法を行う際には有効濃度として12.7 μmol/L以上を目指すべきと考えられた。 自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD)の併存はうつ病難治化の一因をなすが、ASD併存者の93%は、対人トラブル、被いじめ体験、精神病様体験、32歳未満の若年受診の4条件のうち1つ以上を満たし、いずれも陰性であれば98%の確率でASDを除外できることが判明した。また、ASD患者は非ASD患者と比較してうつ時の自殺企図が多く(24.3% vs. 7.2%)、軽度ASDの併存は4.04倍のオッズ比で自殺企図の危険率を高めており、ASD併存は難治化およびハイリスク因子の両面から留意すべきと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに、難治性気分障害に頻用される可能性のあるARIに関する薬理遺伝学的および薬物相互作用上の基礎データを得ることができ、実際に難治性気分障害の強化療法として使用される機会の多いLTGに関しては、難治病態において有効な治療を担保する臨界濃度を設定することができた点で、研究はおおむね順調に推移していると判断される。 さらに、うつ病難治化の潜在要因として、ASD併存の診断補助に寄与する臨床背景因子が具体的に同定され、自殺企図のリスクファクターとして警鐘すべき点が明らかにされた点でも、予想以上の達成度が得られたと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度より、難治性病態の中でも、特にハイリスクで治療の緊急度の高い混合病像の実態を明らかにすべく、うつ状態として受診・入院される連続症例を集積する予定としている。連続症例における混合性うつ病の頻度を、DSM-5の混合性特徴の特定子の基準で拾うとともに、研究者が独自に作成した混合性うつ病症状評価尺度を用いたスコアリングによる定量評価を行い、同評価スケールの妥当性について検証し、同時に、うつ症状、生活機能、気質評価、神経生理学的指標(光トポグラフィー)および生物学的マーカー(神経栄養因子、炎症性サイトカイン)との関連を探索することで、混合性うつ病の実態、重症度および生物学的背景について包括的な検討が推進されることが期待できる。
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