研究課題
基盤研究(C)
はじめに: D-セリンは統合失調症への関与が指摘され、D-セリンはL-セリンから合成される。また我々はL-セリン合成に異常がある統合失調症患者(SCZ)を見出しており、L-セリン合成系の検討を行った。目的: L-セリン合成の律速段階の酵素と考えられているphosphoserine phosphatase (PSP)の活性を測定しSCZと健常者(NCS)で比較、関連する生体現象を検討する。対象と方法: 抗精神病薬服用中のSCZ 59人 、NCS 49人を対象に、[14C] 3-phosphoserine → [14C]serine 反応を利用してPSP活性測定し、さらにその内SCZ 35名、NCS 31名を対象にHPLC法によりL-セリン、D-セリンを測定した。なお本研究は獨協医科大学生命倫理委員会の承認を得ており、参加者全員に書面にて説明行い自筆の署名による同意を得ている。結果: 年齢と性別を独立変数としてロジスティック回帰分析を行い、PSP活性はSCZでNCSより有意に高値であった(SCZ: 38.0±21.9 μU, NCS: 25.3±21.2μU: p=0.004)。SCZとNCSの間でL-セリン、D-セリン共に有意差はなかったが、SCZではD-セリン合成酵素であるserine racemase (SR)の活性を示す可能性のあるD-セリン/(D-セリン+L-セリン)とPSP酵素活性に有意な負の相関が認められた(r=-0.38, p=0.011)。考察: SCZはPSP活性が上昇している一群があり、SR活性が低下しているSCZではPSPが代償的に酵素活性が上昇している可能性が考えられた。セリン合成系は統合失調症の病態に関連する可能性が考えられ、病態生理の解明や診断マーカーとしての使用などへ繋がる可能性も考えられた。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、L-セリン合成に最も重要な酵素であると考えられるホスホセリンホスファターゼ(PSP)の活性測定を統合失調症患者および健常被験者で行い、PSPの酵素活性が統合失調症で上昇していることが明らかになり、疾患に特徴的な変化を見出している。また、同じ対象者で血漿中L-セリンとD-セリンの測定を行い、PSP活性との間に疾患特異的な問題を見出している。これら成果は元来の目的である統合失調症患者におけるL-セリン合成の検討の一部に当たり、元来の目的を順調に成し遂げていると考えられる。
PSP以外の二つのL-セリン合成酵素(PHGDH、PSAT1)の異常が統合失調症患者で認められるか調べる。また、これら酵素の活性など生物学的な状態と臨床症状や病歴などの特徴を比較して、統合失調症におけるL-セリン合成系の問題点を検討してゆくことで、統合失調症の生物学的指標の検討や病態解明につなげてゆく。
平成25年度予定していた実験の一部(mRNA発現量測定)が施行できなかったため。平成26年度に平成25年度施行予定していたmRNA発現量測定を行う予定。
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