研究課題/領域番号 |
25461740
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
尾關 祐二 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (90303768)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 統合失調症 / L-セリン / D-セリン / グリシン |
研究実績の概要 |
統合失調症におけるN-methyl-D-aspartate receptor (NMDAR) 機能低下仮説は一定の支持を得ており、NMDARの内因性コアゴニストであるD-セリンやグリシンはL-セリンから合成されることから、統合失調症ではL-セリンの合成系に何らかの問題が存在する可能性が考えられた。 そこで我々は、L-セリン合成の律速段階の酵素であるPSPの酵素活性を統合失調症患者59名と健常被験者49名で測定してロジスティック回帰分析で比較したところ、統合失調症患者で有意に活性が上昇していた(統合失調症38.0±21.9 μU, 健常被験者: 25.3±21.2μU: p=0.004)。さらに、PSP活性と血漿中D-セリンやグリシとの関係を重回帰分析で比較し年齢や性別で補正したところ、統合失調症患者でのみPSPとD-セリンやグリシンの血漿中濃度との負の相関が見いだされ、L-セリンの血漿中濃度との間には正の相関が認められた。さらにL-セリンからD-セリンを合成する能力の使用となる可能性があるD-セリン/総セリンとPSPとの間に負の相関が認められた。L-セリンの合成にはPSP以外にPHGDHとPSATの二つの酵素も必須であり、これら三つの酵素のmRNA発現量を血液で測定し比較したところ、統合失調症では有意にPSPとPSATの発現量が低下していた。 PSP活性は統合失調症で増加しているが、血漿中L-セリン濃度は両者で差がなかったことから、本来低値であったL-セリンおよびD-セリンやグリシンをPSP活性が上昇することで正常値に戻し、統合失調症患者の病状を安定させている可能性が考えられた。mRNAの結果は酵素活性の上昇に対する代償効果のためかもしれない。今後L-セリンの合成経路を詳しく調べることは、統合失調症患者の病態生理の一部を明らかにするかもしれない。実際本計画の一部である当該酵素の活性調節機構解明において一部成果を得ており、こうした成果と統合失調症の病態との関連を検討する予定としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、L-セリン合成における律速段階の酵素であると考えられるホスホセリンホスファターゼ(PSP)の活性測定を統合失調症患者および健常被験者で行い、PSPの酵素活性が統合失調症で有意に上昇しているという疾患に特徴的な変化を見出している。また、同じ対象者で血漿中L-セリンとD-セリンの測定を行い、PSP活性との間に疾患特異的な問題を見出している。また、血液中のmRNAを対象とした検討では、統合失調症患者ではL-セリン合成経路に何らかの問題が存在している可能性が示された。 また、L-セリン合成経路における酵素活性の調節機構を明らかにし、その見いだされた機構が統合失調症統合失調症の病態と何らかの関係があるかどうか検討する計画としていたが、現時点で一部酵素活性の調節機構を明らかにしており、今後統合失調症における病態との関連を検討する予定としている。 これら成果は 元来の目的である統合失調症患者におけるL-セリン合成の検討の一部に当たり、元来の目的を順調に成し遂げていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの我々の検討結果は、統合失調症患者においてL-セリンの合成経路に問題が生じている可能性を示唆するものであった。このためL-セリン合成経路の詳細な検討は統合失調症の病態生理解明に有用な情報をもたらす可能性がある。現在のところL-セリンの合成機構には未知の部分が残されており、我々はその一部の解明に取り組み一定の成果を得ている。今後はそうした酵素活性の調節機構が統合失調症患者ではどのような状態となっているかを調べることで統合失調症患者の病態生理を明らかできる可能性があり、今後検討予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
mRNA発現量解析で使用した試薬が予測よりも少なかったため残金が生じ、次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
新たなに検体の増加が予定されており、それら検体に対して本年度と同様のmRNA発現量解析を行う予定であり、その際に次年度使用額を使用する予定としている。
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