研究課題
統合失調症ではL-セリンの血中濃度上昇が繰り返し報告され、L-セリンから合成されるD-セリンやグリシンの濃度異常が報告されている。そこで我々は、L-セリン合成の律速段階の酵素であるPSPの酵素活性を統合失調症患者59名と健常被験者49名で測定してロジスティック回帰分析で比較したところ、統合失調症患者で有意に活性が上昇していた(統合失調症38.0±21.9 μU, 健常被験者: 25.3±21.2μU: p=0.004)。しかしこうした上昇はL-セリン濃度の上昇とは相関しなかった。この結果は、統合失調症でみられるL-セリンの上昇が、合成経路の活性化だけで説明できるものではないことを示していると考えられた。また、PSPのmRNA発現量を末梢血液中で測定し、GAPDHやACBTにて半定量化し統合失調症患者と健常被験者を比較したところ、PSP発現量の有意な低下が認められた(ともにp<0.01)。この結果の解釈は難しいが、何らかの理由ですでにPSP活性が上昇しているために代償的に発現量が低下している可能性も考えられた。PSP活性上昇の理由として、遺伝子情報の問題からPSP活性が上昇している可能性や、PSPの転写や活性を調節する因子に問題がある可能性が考えられる。今後こうした点の検討を進めてゆく。また、L-セリン上昇を合成系から説明できなければ、L-セリン合成に関連する、もしくはL-セリンより合成されるアミノ酸合成の状態から影響を受けてL-セリンが上昇している可能性が考えられる。実際代謝経路を考慮に入れたL-セリンに関連するアミノ酸の相互関係の解析を共分散構造分析にて行うと、L-セリンからD-セリンやグリシンの合成経路に問題があるとの結果を得ている。今後もL-セリン上昇の原因を足掛かりとし統合失調症の病態解明から治療や予防法の開発へつなげるべく、検討を継続する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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