研究課題
統合失調症などの精神病性障害を顕在発症するリスクが高い「精神病発症リスク状態 at-risk mental state: ARMS」の中には精神病に移行せずに、症状が持続し社会的に低い機能のまま経過する慢性群の存在が注目されてきた。今年度は、東北大学病院精神科でARMSと診断された連続例126名(平均追跡期間は1303日)の縦断追跡データについて、特に非移行群の予後について調べた。さらに、脳構造MRIについてインテイク時のデータについて、社会的職業的機能評定尺度による低機能群は高機能群との比較をSPM12を用いたVBM法により解析を行った。126名(平均追跡期間は1303日)で、17名の精神病移行が判明した。カプランマイヤー法による精神病への移行率は、36ヶ月で17.5%であった。このうち精神病非移行群で長期追跡が可能であった46名(平均追跡期間は2128日)のうち7名(15.2%)は追跡時もARMSに該当していた。GAFの平均は65.7であり、63%は精神科に通院し、双極性障害、うつ病、不安障害などの診断があり54%は向精神薬を、40%は抗精神病薬を服用していた。69%が職場や学校などで良好な適応を示していたが、31%は適応が不良だった。インテイク時の脳構造は、社会的職業的機能評定尺度による低機能群は高機能群と比較して、右の中心前回から中心後回にかけての領域が有意に小さく、左の中心前回、内側上前頭回、中前頭回、右の下前頭回弁蓋部からrolandic operculum領域の灰白質体積が小さい傾向を認めた。結果から精神病に移行しないARMSは、社会機能をある程度維持しながらも精神科への通院が必要であったり、社会適応が不十分なまま経過する者も多いことが判明した。また、長期的に社会機能が不十分な者は、インテイクの時点で脳構造体積の減少が認められており、長期予後の予測指標として活用できる可能性が示唆された。
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