研究課題
最終年度までの研究として、実験動物(ラット)を用いて亜鉛欠乏(zinc deficiency, ZD)や社会的隔離(social isolation, SI)が、気分障害の指標となる行動やノルエピネフリン(norepinephrine, NE)神経系、神経可塑性に与える影響を検討してきた。ZDやSIの単独負荷では不安様行動やうつ様行動が増加したが、両者を同時に負荷するとそれらはかえって減弱した。ZDやSIの単独負荷ではNE神経系の活動性が亢進して青斑核におけるNEトランスポーターの発現が低下し、両者の同時負荷によりこれらの傾向が更に顕著となった。また、海馬における脳由来神経成長因子の発現は、ZDやSIの単独負荷によりある程度低下し、両者の同時負荷によりさらに低下した。以上より、ZDやSIの単独負荷ではうつ状態となるが、ZDとSIが同時に負荷されると躁状態となる可能性があること、また、これらの行動変化にはNE神経系や神経可塑性の障害が関与している可能性があることが示唆された。最終年度では、これまでに得られたデータとヒトにおける気分変動との関連を明らかにするために、上記の行動変化に対して代表的な気分安定薬であるリチウムが与える効果を検討した。3週齡のラットを搬入して個別飼育(SI)を開始した。1週間後に、食餌を普通食から亜鉛欠乏食に切り替えて(ZD)さらに2週間飼育した。リチウム投与は、普通食から亜鉛欠乏食に切り替えるのと同時に8mMリチウム水を2週間自由に飲ませることにより行った。その後に行った高架式十字迷路試験では、ZDとSIの同時負荷による不安様行動の減弱が、リチウム投与により認められなくなった。従って、ZDとSIの同時負荷による不安様行動の減弱は、ヒトにおける躁状態と類似している可能性が考えられた。
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Behavioural Brain Research
巻: 284 ページ: 125-30
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Human Genome Variation
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