本研究の目的は、高齢者における創造性が脳生理機能に与える影響を、脳波の非線形解析を用いて脳内ネットワークの観点から評価することで、健常高齢者における創造性の神経生理学的基盤を解明することである。 健常者をリクルートし、脳波の計測や心理検査を行った。脳波の非線形解析(MSE値を算出)、創造性指標(S-A値)および知能指数(IQ値)を算出し、これらの関連性を統計解析ソフトを用いて検討した。その結果、創造性の高い群では、前頭部、中心部、頭頂部および側頭部における低周波数帯域でのMSE値が高値を示すことを解明した。また、これらの脳部位において、創造性指標と低周波数帯域でのMSE値の間に正の相関関係を認めることが示唆された。一方で、知能指数とMSE値との間には、有意な関連性は認められないことを解明した。以上より、高齢者における創造性の神経生理学的基盤として、低周波数帯域における脳波の複雑性の増加が関連することが明らかとなった。一般的に低周波数帯域における脳波活動は、広汎な脳内ネットワークの活性化と関連するとされており、高い創造性は、広汎な脳内ネットワークの活性化に影響を及ぼしている可能性が示唆された。さらには、高い創造性に伴う脳波の複雑性の増加は、加齢を防ぐ効果をもたらし、老年期精神障害の発症予防に繋がっているのかも知れない。 これらの結果を既存の文献と照らし合わせて考察し、詳細にまとめた上で、海外雑誌にアクセプトされた。 最終年度は、当初の計画どおり、30歳以下の若年者を対象とした研究をさらに進め、高齢者と若年者とにおいて比較検討し、創造性の高さが生来的に備わった特性か創造的活動を通して後天的に獲得できるものなのかを明らかにしようとている。また、これまでの成果をまとめ、世界精神医学会(Taipei、平成27年11月)にて、シンポジストとして講演するなど行った。
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