本研究で開発した注意構え転換(ASS)課題の遂行成績が、PCP反復投与により顕著な低下を示すようなPCP投与プロトコルを研究期間内に確立することが困難であったため、PCP反復投与動物での記録を断念し、最終年度は統制群となる生食投与ラットにおける前頭前皮質(PFC)ニューロン活動のデータ記録に専念した。ASS課題遂行中に、総計127個のPFCニューロンから単一ユニット活動を記録した。記録された127ニューロンのうち、53個(41.7%)のニューロンが課題関連性の応答を示し、その内、34個(26.8%; 課題関連性応答するニューロンの64.2%)のニューロンが注意転換に関連する応答変化を示した。課題関連性応答するニューロンのうち、条件刺激(光または音)に対して興奮性ないし抑制性応答するものが各々約20%、脳内報酬刺激に対して興奮性ないし抑制性応答するものが各20%であった。注意転換前後で応答特性が変化するニューロンは、条件刺激に対する応答が注意転換前後で無応答から抑制性応答に変化するものが一番多く(11個;注意関連応答するニューロンの32.4%)、続いて脳内報酬刺激に対する応答が興奮性応答から無応答に変化する(8個;23.5%)ものが多かった。ユニット記録部位のフィールド電位に関して時間周波数解析も実施したが、各周波数帯域の振幅、試行間位相同期性において、注意転換前後で有意な変化が認められなかった。本研究では、健常ラットにおけるASS課題時のニューロン活動特性を明らかにすることができたが、当初予定していた統合失調症モデル動物におけるPFCニューロン活動異常を検証することができなかった。今後、PCP反復投与モデル以外の統合失調症動物モデルにおいて同様の記録を試みる予定である。
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