平成25年4月以降は、TMS(経頭蓋磁気刺激法)と脳波を組み合わせたTMS-EEG実験を健常被験者(定型発達者)に対して実施した。シーバースト刺激(TBS)の前後でTMS誘発電位を測定したところ、N100、P180といった成分の振幅の経時的変化を捉えることができた。この予備的結果は、TMS誘発電位が前頭連合野の興奮特性や可塑性を反映するバイオマーカーとしての可能性を示唆した。平成25年9月以降は、被験者負担が少なく、TMS-EEG実験に特化した実験環境を確立した。新しい実験システムと研究プロトコールによって、TMSアーティファクトの混入が劇的に低減され、TMS誘発電位の超早期成分(N45など)の解析が可能となった。新規プロトコールを用いて、TMS-EEG実験を繰り返し平成28年2月までに、定型発達者29名、発達障害者(自閉症スペクトラム障害)20名のデータを取得した。初期の解析を既に終えており、以下の3点を明らかにした。1)定型発達者において、TBS前後でTMS誘発電位を経時的に測定したところ、TBS群はシャム刺激群と比較して、TBS実施後10分~50分においてN45成分の振幅が増幅効果(長期増強様効果)を示すことが確認された。2)定型発達者において認知機能課題を経時的に測定したところ、TBS実施後20分~40分において作動記憶を中心とした認知機能の一時的な増強効果(機能的可塑性)が確認された。3)発達障害者においては、上記の1)も2)も認められなかった。このように前頭前野の神経可塑性様特性において、定型発達者と発達障害者の間で顕著な違いを見出すことができた。これらの結果は今後の治療的介入法開発の基礎データとして重要である。
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