主要な発達障害である自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠如多動性障害(ADHD)はともに出現頻度の高い疾患であるにもかかわらず、スクリーニングが可能な生物学的な検査法は存在せず、その診断は熟練した臨床医による臨床判断に頼っており、さらに診断のための生物学的マーカーも存在していない。近年光トポグラフィー(NIRS)検査は、臨床的な診断ツールとして期待が高まっているが、われわれはこれまでの研究で、ASD において言語流暢性課題遂行時におけるNIRS 所見に特徴がみられることを報告した。本研究においては、ASD およびADHD 患者を対象にNIRS 検査を施行して特徴的な脳血流のパターンを抽出し、これらの疾患における診断、治療経過に役立つ生物学的な指標を得ることを目的とする。2種類の言語流暢性課題(カテゴリー流暢性課題と文字流暢性課題)施行時におけるNIRS所見を記録したところ、ASDにおいては、文字流暢性課題において酸素化ヘモグロビンの変化が健常者と比較して有意に小さかった。同様に、ADHD患者においても文字流暢性課題において酸素化ヘモグロビンの変化が健常者と比較して有意に小さかった。ADHDと健常者の差異は、左背外側前頭前野、左腹外側前頭前野、上側頭回で顕著だった。現在、ADHDとASDの差異について詳細を検討中である。 さらに本研究においては、ASDとADHDの臨床症状の比較も行なった。これまでASDとADHDは併存しないものと定義されてきたが、実際には両者の類似点が多く、併存もまれではないことが報告され、現在の診断基準においては両者の併存が認められている。われわれの研究では、ASDにおいても一定のADHD症状がみられること、ADHDにおいても一定のASD症状がみられることが明らかになった。今後さらに両者の臨床症状について構造化面接などを用いて詳細に検討を行いたい。
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