申請者はDV や子ども虐待の被害をうけた女性の子どもに生直後から様々なレベルでの自己調節障害や発達障害を呈する児が有意に多いのではないかという臨床疑問から研究を開始し、母胎環境が児の心身の状態に影響を与えるということへの科学的根拠を、遺伝―環境相互作用子の現れであるメチレーションという観点から解明したいと考えて今回の申請を行った。 まず出産を支援する婦人保護施設群における血液検体および臍帯血を利用できるような臨床研究基盤の形成を行ったが、申請時に可能であるといわれていた婦人保護施設内におけるリクルートに関する施設の意向が申請後に再び変わったため、当該施設からほど近い場所にクリニックを開設し、受診が必要になった方をリクルートとすることにした。さらに健常群を求めるために杉並区産婦人科医会との連携や、特定妊婦の支援に関するネットワーク形成などを行った。最善を尽くしたが時間のかかる作業で、まだ臨床研究基盤形成にまでは至っていない。 既にある検体として昭和大学の発達コホートにおいて申請者の研究に組み入れられた協力者から得られた臍帯血を利用する予定であったが、申請後、全血からの検体をDNAに精製してもメチレーションの測定は難しいことがわかった。一方、最終年度に、申請者が昭和大学で取得した臍帯血の半分が、他の研究グループの研究内で既に精製されたDNAとして東京大学に保管されており、将来の発達障害の研究への検体利用の同意が得られているものに関しては論理的には利用可能であることが判明したが、倫理申請や新たな研究計画が必要であるため、残りの1年で行うのは難しいと考え、延長を行わず研究費を返還することとした。 今後は、当初からの研究成果の論文化と、当該領域における関連論文のメタ解析やガイドラインの作成などを行いながら、新たな機会を待ちつつ、同研究を継続する予定である。
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