研究概要 |
1日2 GyのX線分割照射を30日以上うけながら分裂増殖を続けることができる臨床的放射線耐性細胞 (CRR細胞)の形成機構解明を試みた。特に本年度は、1日2 Gy以下の分割照射から生存すると、CRR細胞ほどの抵抗性を持たないものの、親株と比べて放射線抵抗性を示す放射線獲得耐性 (ARR)に着目し、CRR細胞の樹立に必要か否か、そしてARR誘導の意義を検討した。 5種類のがん細胞株 (A172, SAS, A549, HepG2, HeLa)を用いたところ、1日1 Gy以上の分割照射に対して耐性をもつがん細胞株は見当たらなかった。そのため、0.5 Gyの分割照射に対するARR細胞 (ARR0.5)を作成し、その後にCRR細胞樹立の可否を検討した。CRR細胞の形成には至らなかったものの、親株細胞と比べて2 Gyの分割照射に対して生存していた期間が延長していたため、CRR細胞の樹立には0.5 Gy以上の分割照射線量に対するARRの誘導が必要となることが示唆された。そこで、1 Gyの分割照射に対して生存 (ARR1)が可能となるARR0.5細胞の条件を検討した。ARR1細胞を形成する為の0.5 Gy分割照射回数にはしきい値があり、さらに分割照射回数を増やすとARR1細胞の形成頻度が増加した。2 Gyの分割照射に対して、ARR1形成頻度が低いARR0.5細胞は親株と同様に細胞数が顕著に減少したが、ARR1形成頻度が高かったARR0.5細胞では細胞数の減少が見られなかった。この時、DNA二重鎖切断の指標となる53BP1フォーカス数は親株細胞と同程度であったため、分割照射回数の多いARR0.5細胞ではDNA二重鎖切断に依存する細胞死誘導機構が抑制されている可能性が示唆された。 よって、細胞死誘導機構が抑制されるARR細胞の出現がCRR形成の一因となる可能性が示唆された。
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