研究課題
一般的な放射線治療で行われる1日2 GyのX線分割照射に抵抗性を示す臨床的放射線耐性 (CRR)細胞の耐性獲得メカニズムの解明に取り組んだ。特に本年度は、ヒト腫瘍由来細胞株のCRR化に必須の過程である、0.5あるいは1 Gy/日から始める少線量放射線の事前分割照射の意義について、放射線抵抗性 (獲得放射線耐性, ARR)を誘導する過程であると仮定し、その検証を試みた。そのため、少線量分割照射をうけた細胞の放射線感受性をコロニー形成法で検討した。まず、親株のCRR化に必要な分割照射回数をそれぞれの少線量に対して決定し、確定された分割照射によるARR化を調べた。CRR細胞は、4 Gy以上の単回照射で親株よりも放射線抵抗性を示した。次に0.5あるいは1Gy/日の分割照射を90回まで行うと、6 Gy以上の単回照射に対して親株よりも放射線抵抗性を示す傾向にあったが、統計的に有意な差はなかった。そこで、2週間程度の分割照射期間中に形成される生存コロニー形成能で感受性を評価すると、1.5 Gy/日以上の分割照射に対して親株は生存コロニーを形成できなくなるが、少線量分割照射を事前に受けた細胞ではコロニー形成能を獲得した細胞(ARR細胞)が出現した。1.5 Gy/日の分割照射中に増殖するARR細胞の中からCRR細胞が出現したので、CRR化に必須な少線量分割照射は、親株へARR形質を誘導することに寄与すると思われる。また、がん幹細胞の指標の一つであるside population (SP)分画を調べると、子宮頸癌細胞株であるHeLa細胞では親株中にほとんど存在していなかったSP分画が、CRR細胞では数%に増加していた。少線量分割照射をしないとCRR細胞が樹立できなかった事から、CRR細胞で検出されるSP細胞は親株のSP細胞と異なる形質、及び放射線感受性をもつ可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
CRR化に必須な少線量分割照射の意義が親株のARR化である可能性を今年度の研究結果より示した。分割照射に対するARR化を一般的な放射線感受性試験で用いられている単独照射への感受性の違いとして検出する事は出来なかったが、本年度に行った分割照射期間中の生存コロニー形成率として解析する変法を用いて示すことができた事は、本研究課題の進捗において非常に意義のある結果となった。また、CRR細胞の候補として、がん幹細胞様の特徴を付加される可能性を示した事も次年度への大きなステップとなった。本研究課題の推進において、分割照射中に生存細胞と死細胞を区別して解析する事が大変重要となるが、本年度の結果はその選別手段に理論的根拠を与える結果となり、次年度の研究推進に向けての一助となった。
次年度は、CRR化にがん幹細胞形質、あるいはEMTが関与する可能性について検討する。CRR細胞では親株と比較してSP分画含有頻度が多くなる事が確認された。そこで、親株に含まれるSP分画の濃縮がCRR化の要因となる可能性を検討する。セルソーティングによって親株、及びCRR細胞のSP分画と非SP分画をとりわけ、2 Gy/日の分割照射に対して分裂・増殖能を維持する事が可能な分画を検討し、CRR化ががん幹細胞の濃縮か、放射線によるがん幹細胞性の誘導かについて検討する。後者の可能性が示唆された場合には、エピジェネティックな分子メカニズムとDNA損傷応答反応経路の関係について検討を行う。CRR細胞を用いた検討から2 Gy/日の分割照射に対する抵抗性にSP、非SP分画のどちらが寄与しているかについての検討を行う。また、ストレス誘導性細胞死を抑制するEMTとCRR化の関連についても検討する。そのため、放射線による細胞死の経路が異なる複数の細胞株を用いて、CRR化に伴うEMTの関与と、放射線に誘導される細胞死経路の違いによってCRR化におけるEMTとの関連に影響があるのかについて検討する。また、少線量分割照射に対して抵抗性を示すARR細胞でのEMTの発現を調べ、ARR化におけるEMTの関与も含めた検討を行う。
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Cancer Sci.
巻: 105(10) ページ: 1351-9
10.1111/cas
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