研究実績の概要 |
本研究は、食道癌における放射線耐性のメカニズムを解析すると共に、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬であるValproic acid (VPA)の放射線耐性克服効果を基礎的に検討する事を目的とする。食道癌は腫瘍内の低酸素環境や、放射線照射による細胞ストレスによりHIF1αを誘導し癌幹細胞へと形質転換し放射線耐性を獲得することが疑われる。HDAC阻害薬はHIF1α発現を抑制し、癌幹細胞への形質転換を阻害するとともにDNA二重鎖切断修復作用を抑制することにより放射線耐性を克服することが期待される。平成25年度は食道癌培養細胞に放射線照射を行った場合に上皮間葉転換(EMT)誘導と癌幹細胞様形質の獲得が確認され、治療抵抗性の一因となっていることが示唆された。平成26年度はこれらの変化をVPAが抑制しうるか検討を行った。VPAはTGF-β投与ならびに低用量の放射線照射によって引き起こされる細胞の紡錘状の形態変化、E-cadherinの発現減弱とβ-cateninの核内移行、Vimentinの発現増強、TGF/smad経路におけるsmad2,smad3のリン酸化と転写調節因子である twist, snail, slug の誘導をいずれも抑制する事が確認された。VPAはさらにTGF-β投与ならびに低用量の放射線照射によって誘導されるHIF-1αの発現亢進と癌幹細胞に現れる表面マーカーであるCD44の発現率の上昇も抑制した。平成27年度はVPAがDNA二重鎖切断修復酵素Ku70のアセチル化により阻害し放射線感受性を増加させることと、放射線誘導性EMTの抑制を介して癌細胞の浸潤・遊走を抑制することを確認した。以上よりHDAC阻害薬であるValproic acid (VPA)は放射線照射による食道癌のEMT変化と癌幹細胞様形質の獲得を阻止し放射線によるがん細胞の浸潤・遊走を抑制するとともに、二重鎖切断修復酵素の阻害作用により放射線感受性を増大させ、放射線耐性克服効果を示すことが示唆された。
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