研究課題/領域番号 |
25461920
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
森 努 福島県立医科大学, 看護学部, 准教授 (60244373)
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研究分担者 |
鈴木 弘行 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (30322340)
杉野 隆 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, その他 (90171165)
増田 知之 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (70372828)
池田 和彦 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (90381392)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオインフォマティクス / 癌遺伝子 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
研究計画調書に記載した通り,25年度は「UHRF familyが癌に関与する分子機構の解明」がテーマであり,下記の2つの面で進捗が得られた。これらを手掛かりにwet実験で検証していくことが次年度以降の新たな課題となった。 【Ab initio遺伝子機能推定法の開発】 UHRFは細胞周期因子と相互作用することなどから,癌関連性が予想されてきた。しかしその生理機能についてのコンセンサスは得られていない。ここで想起すべきUHRFの特徴は,分子上に機能ドメインが多数存在し,各々全く異なる分子モジュールと相互作用することである。これは現在主流のドメイン別解析だけでは,全体像を知ることが極めて難しいことを示している。もちろん生理機能が把握できなければ,治療法開発は不可能である。 そこで私たちは,ビッグデータを用いて未知遺伝子の生理機能を推定する手法(Ab initio prediction of gene function)を開発した。これは米国TCGA (The Cancer Genome Atlas)に記録された全癌・全症例・全遺伝子についての情報を基に,独自開発アルゴリズムで約10億回の計算を行い,染色体上全遺伝子の相互関係を数値化するとともに,統計学的に生理学的意味付けを行う手法である(発表準備中)。この手法は事前情報を必要とせず,遺伝子の生理的機能の全体を把握できる。これを用い,UHRF familyがDNA安定性と細胞周期制御に関わる様相を,高い統計学的有意性(1E-10程度)で把握できるようになった。これは私たちのwet実験結果を裏書きしている。 【UHRFとヒト腫瘍との関連性】 以上のin silico解析に伴い,UHRFが腫瘍の発生・予後に関わる様相についても次第に明らかになり,これまでの知見に加え,NIRF/UHRF2が白血病の予後にも非常に大きく関わることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度ではUHRF familyの分子機構の概略を把握することが目標であり,特にネットワーク情報を活用することを当初から重要視していた。Wetでの検証実験こそ次年度に持ち越しとはなったが,ab initio法で,既に分子機能について多量の情報が得られており,検証すべき範囲を効率的に絞り込めたことは予想以上の成果だった。また,白血病での病態関連性は,現在報告されている他の遺伝子より大きいものであった。自験例での確認にも成功しており,これも予想を超える収穫だった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の進捗を踏まえ,次の3点に焦点を絞って検討を進める。 【遺伝子間相互作用の数学的基礎】私たちのAb initio法では,遺伝子間の相互排他性と協調性を基に解析を実行しているが,この現象が生じる機序は未知である。私たちはこれらの現象の生じる機序を,偏微分方程式でのモデル化に成功している。この線に沿って数学的側面からの基礎研究を完成させ,wet実験や症例解析などの応用解析に資することとする。
【UHRFの放射線感受性機構】私たちのAb initio解析では,UHRF1とUHRF2が関係する遺伝子群を,p-value順に序列化可能である。この結果,各々が属するモジュールの共通性と相違点が示唆された。この知見を基に,研究計画調書の当初計画について,優先順位を変更する。例えばUHRF1とUHRF2の共通の作用点は,計画立案時の予想通りDNA damage responseとcell cycle checkpoint経路であったが,新たに重要な共通因子が見出された。またUHRF1とUHRF2の主な生理的作用点および作動因子は異なっている。一方,腫瘍の臨床経過解析から,このDNA damage response機能が予後に影響するのはUHRF2 (>UHRF1)であることが判った。以上の知見を踏まえ,UHRF1/2が放射線感受性および癌の悪性度と関連する際の作用点をそれぞれ限定し,個別にwet実験で比較検証を進める。
【放射線感受性と癌の症例解析】NIRF/UHRF2のDNA lossや発現低下が,白血病と乳癌・肺腺癌・卵巣癌の予後に大きな影響を示すことが明確になった。今後はAb initio解析と絡め,UHRFが,他のどの様な遺伝子と関連しながら予後に影響するかを明らかにし,具体的関与を明確化する。UHRF2のKOマウスは,想定される関連遺伝子とのダブルノックアウト実験も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
効率的に研究資金を活用する上で,多岐に渡るUHRF1/2の分子機能のうち,何が中心的かを見極めてから実験に入ることが必要と判断した。そこで従来の分子生物学的アプローチに換えて新たなinformaticsを開発する方針とした結果,基本的な情報処理技法については当該年度末までに完成することができ,UHRFの主要な生理機能がDNA障害反応であることも判明した。 この方法は分子構造や個別のドメイン機能に関する事前情報を必要とせず,従来の分子機能予測とは一線を画している。重要なのは,この方法が通常の分子生物学的実験とは,まったく方向性の異なる解析法であることで,逆に,通常の実験法と組み合わせることにより確度の高い結論を得ると期待される点である。 以上のinformatics方法論開発の費用は,申請時に想定した金額を下回ったため,次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の経過から,H26年度には癌と関連するUHRF分子の解析実験を,より焦点を絞った上で実施するために資金を充当する。この実験は以下の3方向で行う。①UHRF1と2それぞれのKOマウス由来のMEFを用い,放射線感受性が傷害されるメカニズムを比較する。②KOマウスでUHRF2が白血病に関わる機構を解析する。③癌症例のゲノム解析で,UHRF異常と関連する遺伝子ネットワークを描出する。以上のwet実験には,H25年度のinformaticsよりも大きな資金が必要であり,特にマウス実験系を確立するために経費を投入する。このため,共同研究者の池田和彦先生(血液内科)と,増田知之先生(解剖組織額)への割り当て額を確保した。なお,Informaticsの数学的発展については,最小必要経費以上の充当を行わない。
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