研究課題
平成24年度までに、様々な形状に成形が可能で、かつ目的の元素を比較的自由に組み込める板状熱蛍光(TL)線量計を開発した。本技術を用いて、濃縮10Bを含有するホウ酸リチウム系のTL素子とホウ酸ガラスフリットによる板状TL線量計を製作すると、中性子検出効率の高い板状線量計が設計可能である。特に、ホウ素中性子補足療法(BNCT)の10B分布と濃度測定等に有用な新しい中性子オートラジオグラフィ(NCAR)法として大いに期待できる。既存のCR-39プラスチック飛跡検出器と異なり中性子の線量分布を簡易的に取得できる点において優位性が高い。本研究では、中性子の検出効率と空間分解能を最適化するだけでなく、α、β、γ線に対するTL依存性を調査し、他線種との弁別も図り、板状TL線量計による新しいNCAR法を開発する。平成25-26年度は、濃縮ホウ酸含有TL素子の合成法を最適化し、高効率高分解能の中性子用板状TL線量計(Neutron capture TL slab dosimeter: NCTLSD)を製作することを目標とした。当初は、ホウ酸含有の硝子フリットをバインダーとしてセラミックス基板にTL素子を焼結させる技術を利用してNCTLSDを製作する予定であったが、本手法より高分解能イメージングが可能なAl2O3を主原料としたセラミックス基盤のTLSDと板状コンバーターまたはホウ酸含有TLSDによる中性子をイメージングの有用性が高いことを明らかにした。現在、Al2O3によるTLSDの高感度化に取り組んでおり、本技術に関する特許が特許査定となっただけでなく、新たな特許出願も行った。
2: おおむね順調に進展している
平成25-26年度の具体的な実施目標は、①濃縮ホウ酸含有TL素子の合成法を最適化する②TEP-TLSDに1の素子を利用しNCTLSDを製作する③セラミックスを基盤とした板状TL線量計に①のTL素子を利用しNCTLSDを製作する、であった。①に関しては、熱蛍光体Li3B7012:CuはLi2B4O7とB2O3を3:1の割合で混合し、さらにCuOを0.1w%加えた混合物を焼結して得られるので、まず、10B96%濃縮ホウ酸を加熱し、濃縮10B2O3を生成し、この生成した濃縮10B2O3をLi2B4O7とLi3B7012の生成に使用して濃縮ホウ酸含有TL素子の合成を行った。濃縮率別のTL素子を合成し、近畿大学原子炉を利用した中性子に対するTL特性の調査を行ったが、濃縮10B2O3の顕著な効果はみられなかった。②に関しては、①の実験で濃縮10B2O3の顕著な効果は見られなかったことからも明らかではあるが、TEP-TLSDに①の素子を利用したNCTLSDを製作し中性子イメージングを試みてもS/Nの低い画像しか得られなかった。③のセラミックスを基盤とした板状TL線量計に①のTL素子を利用しNCTLSDを製作することに関しても、②と同様であった。そこで、高分解能イメージングが可能なAl2O3を主原料としたセラミックスのTLSDと、中性子と10Bの n-α反応を利用した板状コンバーターとの組み合わせで中性子イメージングを検討した。近畿大学のマシンタイムは終了していたため、241Amのα線源を利用してAl2O3のTLSDがα線に対する感度を有しているか実験を行った。その結果、α線を検出することが可能であることが判明したため、本手法を用いた中性子イメージングに方針を変更した。また、このAl2O3 のTLSDの最適化に取り組み、特許出願に至ったことから、おおむね順調に進展していると判断した。
平成27年度以降の当初の実施内容は、①TL素子の最適な粒径を明らかにする②TL素子と添加するバインダーの種類と量を最適化する③TLスラブ線量計の空間分解能を明らかにする④α・β・γ線に対するTL特性を明らかにする⑤中性子線と他線種との最適な弁別法を明らかにする⑥NCTLSDを大型化する(10mm×10mm → 80mm×80mm)⑦NCTLSDの中性子線量分布測定に対する各種特性を明らかにする、であった。しかし、研究実績の概要および達成度で述べたように、高分解能イメージングが可能なAl2O3のTLSDと、中性子と10Bの n-α反応を利用した板状コンバーターとの組み合わせまたは、Al2O3に10Bを含有させたTLSDで中性子をイメージングする方法を以下のように進める。①Al2O3のTLSDの最適な厚さを明らかにする②Al2O3のTLSDと組み合わせるホウ酸板状コンバーターの最適な厚さを明らかにする③Al2O3 のTLSDに添加する10Bの含有量を最適化する④Al2O3のTLSDの粒状性(MTF)をはじめとする画像特性を明らかにする⑤Al2O3のTLSDのα・β・γ線に対するTL特性を明らかにする⑤④までのデータを基に中性子線と他線種との最適な弁別法を明らかにする⑥NCTLSDを大型化する(10mm×10mm → 80mm×80mm)⑦NCTLSDの中性子線量分布測定に対する各種特性を明らかにする⑧最終年度にはBNCTの10B分布や中性子線量分布測定に対する有用性を明らかにする。尚、中性子照射施設として予定していた近畿大学原子炉が現在、運転を中止しているため、当分は本学の241Amのα線源や近畿大学の中性子線源を利用して実験を進め、最終年度までにはBNCTを設置している病院で中性子照射を行い有用性の調査を行えるように準備を進める。
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Journal of Nuclear Science and Technology
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Radiat Prot Dosimetry
巻: 161 (1-4) ページ: 437-440
10.1093/rpd/ncu140