研究課題
重粒子線（炭素線）は物理学的線量分布の良好さに加え、生物学的効果比が2.5～3.0と高く放射線抵抗性腫瘍に対して特に有効であり、頭頸部非扁平上皮癌や骨軟部腫瘍をはじめ多くの極めて良好な局所制御効果が報告されている。今後一般に普及するためには、common cancerの局所進行癌に対する集学的治療の中で重粒子線治療（炭素線治療）の有効性を科学的に明らかにする必要がある。本研究では治療成績が不良で死亡率第一の肺癌において、局所進行非小細胞肺癌の重粒子線治療を確立するための基礎的研究を行っている。ヒト非小細胞肺癌細胞を用いて炭素線照射とX線照射の比較をin vitroで行い、抗癌剤の炭素線増感効果を検討した。引き続いて増感効果のメカニズムを分子生物学的に解析する。重粒子線照射は炭素線290MeV/μでSOBPビームを用いて照射実験を施行した。SOBP中心のLETは50keV/μmである。抗癌剤カルボプラチンとパクリタキセルを用い、ヒト非小細胞肺癌H460細胞を用いてin vitroで炭素線増感効果を実験的に検討した。以前のシスプラチンを用いたラット腫瘍細胞に対する検討では、放射線抵抗性腫瘍細胞株においてのみ増感が認められたが、今回の検討ではカルボプラチン、パクリタキセルいずれの薬剤においても炭素線増感効果が認められた。細胞生残率曲線における増感様式は相乗効果であり、Ｘ線に対する増感様式とほぼ同様であった。肺癌細胞に対する炭素線増感効果の報告は今回の研究が初である。
2: おおむね順調に進展している
重粒子線（炭素線）治療は現在、多くの臨床治療成績が報告され、難治性である放射線治療抵抗性腫瘍に対する有効性が明らかになりつつある。また腫瘍径の大きい肝細胞癌、common cancerである前立腺癌、Ⅰ期肺癌に対する高い局所制御効果と良好な生存率が示されている。今後は難治性の局所進行癌に対する炭素線治療への取り組みが期待される。特に局所進行肺癌は現在の化学放射線療法では治療成績が不良で、新たな治療展開が望まれるところである。そこで非小細胞肺癌治療の基礎的研究として、非小細胞肺癌に対する炭素線の照射効果、抗癌剤併用効果を詳細に検討し、化学療法併用重粒子線治療の臨床プロトコール作成に必要な基礎的データを,in vitroの実験結果から細胞致死効果ならびに抗癌剤併用増感効果について得ることができ成果を上げている。今回明らかとなった増感効果のメカニズムを引き続き検討し、臨床プロトコール作成に向けた基礎的解析を継続する。
昨年度の成果として、in vitroでの炭素線のヒト肺癌細胞に対する抗癌剤の増感効果に関して実験的検討を行い成果を上げた。細胞致死効果以外のエンドポイントに着目し、炭素線抗癌剤併用効果のメカニズムを細胞死メカニズムのアポトーシス、セネッセンスを中心に解析する。さらにバイスタンダー効果や、腫瘍細胞浸潤能に着目して検討を加える。そのうえで先進医療の新たな臨床プロトコールとして、非小細胞肺癌に対する炭素線化学療法併用療法のプロトコール作成に資する基礎的実験データを得ることが目的となる。
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Radiosensitizing effect of carboplatin and paclitaxel to carbon-ion beam irradiation in the non-small-cell lung cancer cell line H460.
巻: 56 ページ: 229-238
10.1093/jrr/rru085
Journal of Clinical Oncology and Research
巻: ２ ページ: 1020
Journal of Radiology & Radiation Therapy
巻: ２ ページ: 1046
Journal of Radiation Research
巻: 55 ページ: 665-673
10.1093/jrr/rru005
巻: 55 ページ: 658－664
10.1093/jrr/rru002
