研究課題
基盤研究(C)
膵癌は消化器癌の中でも予後が悪く、既存の化学療法に治療抵抗性を示すことが知られている。膵癌の治療抵抗性には抗癌剤に耐性を示す膵癌幹細胞の関与が強く考えられるが、ヒト膵癌における膵癌幹細胞の特性は十分に明らかにされていない。本研究では、抗癌剤治療後に残存するヒト膵癌幹細胞の特性の解明し、ヒト膵癌幹細胞において特異的に発現する分子の抽出を試み、これらの分子の機能を評価することを目的としている。本研究では、術前化学放射線療法を実施した検体 (CRT検体) と術前化学放射線療法を実施していない検体 (non-CRT検体) を比べた際に、CRT検体において高頻度に存在する細胞が膵癌幹細胞であるとする仮説を立て、その検証を進めた。CRT膵癌臨床検体、nonCRT膵癌臨床検体を対象として癌幹細胞マーカーとして知られるEpCAM、CD133、CD44の発現を免疫組織化学により検討したところ、CRT検体ではnonCRT検体に比べてEpCAM+CD133+CD44+細胞の存在頻度が高いことが明らかとなった。さらに、双方の膵癌検体を免疫不全マウスであるNOD/scidマウスの背部皮下に移植したところ、CRT検体の方が高い腫瘍形成能を持つとともに、早期から腫瘍形成が生じることが明らかとなった。また、本研究を進める中で、ヒト膵癌組織の移植系を確立することが出来たため、同一患者の膵癌組織を移植した複数の担癌マウスに対して抗癌剤 (ゲムシタビン)あるいは生理食塩水の投与を実施し、抗癌剤投与群で発現が変化する分子の抽出を進めた。その結果、抗癌剤投与群で発現が変化する分子のプロファイルを取得することに成功した。本年度の研究によりヒト膵癌幹細胞の表現型を明らかにすることが出来た意義は大きい。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、抗癌剤治療後に残存するヒト膵癌幹細胞の特性の解明し、ヒト膵癌幹細胞において特異的に発現する分子の抽出を試み、ヒト膵癌の抗癌剤耐性に深く関わると考えられる分子について機能解析をすすめることにある。本年度は、術前化学放射線療法を実施した検体 (CRT検体) と術前化学放射線療法を実施していない検体の比較から、ヒト膵癌中のEpCAM+CD133+CD44+細胞が膵癌の治療抵抗性に深く関与することを明らかにし、ヒト膵癌の表現型について極めて有用な知見を得た。加えて、臨床検体の解析において問題となる個体差を回避するため、免疫不全マウスを用いたヒト膵癌検体の移植系を確立し、担癌マウスに対する抗癌剤投与条件を確立することが出来た。本年度に得られたこれらの成果は、ヒト膵癌幹細胞で特異的に発現分子の抽出を進める上で極めて強力な解析系となる。以上の様に、研究は概ね順調に進展しているといえる。
我々は、本研究において、1) 抗癌剤治療後に残存するヒト膵癌幹細胞の特性の解明し、2) ヒト膵癌幹細胞において特異的に発現する分子の抽出を試み、3) ヒト膵癌幹細胞の抗癌剤耐性に関わる分子の機能解析を行うことを目的としている。本年度、1)については達成し、2)についても推進することが出来た。今後は、2)の検証を進めること、および、3)に着手することである。そこで、次年度、2)についての検証を進めるとともに、抽出された分子についてEpCAM+CD133+CD44+細胞での発現検証を進める予定である。具体的には、担癌マウスへのゲムシタビン投与後に残存したヒト膵癌組織を対象として、フローサイトメトリー解析により膵癌幹細胞画分を高精度に分離しながら、抽出された分子の発現検証を進める予定である。膵癌幹細胞において、特異的な発現を示す分子が抽出された場合は、当該遺伝子の発現をノックダウンあるいは過剰発現により人為的に誘導し、抗癌剤への感受性への関与を検討する。これにより、ヒト膵癌幹細胞の治療抵抗性メカニズムの解明を図る。
膵癌の担癌マウスの作製効率が向上してきたため、移植用マウスの購入費を抑える事が出来た。膵癌幹細胞で特異的に発現する分子の抽出を進める上では、移植用マウス購入費の一部を次年度のタンパク質・遺伝子発現費用に充てることが有用でると判断し、次年度使用額を設定した。膵癌特異的に発現する分子の抽出を加速させるため、DNAマイクロアレイ等を用いた網羅的な遺伝子発現解析を実施する予定である。次年度使用額は上記解析のための試薬類購入経費として使用する予定である。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)
Hepatology
巻: 4 ページ: in print
10.1002/hep.27046
Nature
巻: 499(7459) ページ: 481-4
10.1038/nature12271