研究課題/領域番号 |
25461972
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坂東 裕子 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (00400680)
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研究分担者 |
大根田 修 筑波大学, 医学医療系, 教授 (30311872)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 乳癌 / 癌幹細胞 / Aldehyde dehydrogenase / 低酸素 / 初代培養 |
研究実績の概要 |
近年の乳癌治療はsubtype別に細分化され、一定の局所奏功率や予後延長効果をみとめているが、なお女性における癌の中で最も患者数が多く、死亡率も上昇傾向にある。その背景として、有効な再発転移後の治療が確立していないこと、ホルモン受容体陽性乳癌であるluminal Aとluminal Bの判別が困難であり、適切な治療選択が困難なことなどがあげられる。また、近年固形癌における癌幹細胞(CSCs)の概念が注目されており、これらの有する高い腫瘍形成能及び転移能、治療抵抗性により再発転移後の治療が困難となっている可能性が考えられる。乳癌におけるCSCsのマーカーとしてはこれまでCD44+/CD24-, aldehyde dehydrogenase(ALDH)などが報告されている。 本研究では、乳癌手術検体または再発乳癌症例の胸水より初代培養した原発性乳癌細胞におけるCSCsの機能解析を行い、ホルモン治療及び抗癌剤、分子標的薬剤の位置づけを行うことを目的とした。 胸水由来の乳癌初代培養細胞に対し、Aldefluorを用いてALDH high groupとALDH low groupに分離した。それぞれのグループに対しmammosphere assay及び尾静脈移植モデルでCSC abilityについて検討したところ、いずれもALDH high groupにおいて有意に高い足場非依存性増殖能、自己複製能、転移能を認めた。この2グループに対して上皮間葉転換(EMT)に関する検討を行った結果、ALDH陽性細胞で上皮間葉転換(EMT)を促進する転写因子Snail及びSlugの発現が高く,低酸素条件下で上昇することが明らかとなった。また,Reporter assayにより,ALDH陽性細胞の性質維持にHIF-1αタンパク質を介したSnail及びSlugが寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により,胸水由来乳癌初代培養細胞から分離したALDH陽性細胞で上皮間葉転換(EMT)を促進する転写因子Snail及びSlugの発現が高く,低酸素条件下で上昇することが明らかとなった。また,Reporter assayにより,HIF-1αタンパク質がSnail及びSlug遺伝子のプロモーター領域に存在する低酸素応答配列(HRE)に結合し,両遺伝子の発現を活性化させることが示された。以上の研究成果から,ALDH陽性細胞の性質維持にHIF-1αタンパク質を介したSnail及びSlugが寄与していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1.低酸素条件下におけるCSCsの維持及び増殖の可能性が示唆されていることから,今後は他のサンプルにおいても同様な傾向が見られるのかを検討していく。 2.乳癌初代培養細胞より分離したALDH陰性細胞に対し,プラスミド(pEF-BOS-HIF-1α)を用いてHIF-1αタンパク質を過剰発現させて,AldefluorによるALDH活性,mammosphere assay及び尾静脈移植モデルによる足場非依存性増殖能・自己複製能・転移能,Real-time PCRによる転写因子SnailやSlugの発現の3点について調べ,HIF-1αタンパク質がALDH活性及びCSCsの性質を制御しているのかを検討していく。 3.CSCsに対する化学療法・放射線療法抵抗性についての報告は数多くされているが,luminal type乳癌におけるCSCsとホルモン療法及び分子標的薬剤に関する検討は未だ不十分である。今後これらの薬剤の単剤・併用の選択指標も臨床上重要となってくると考えられ,現在使用している初代培養細胞の由来がluminal type乳癌症例由来であることから、luminal type乳癌における薬剤感受性及びALDH・CSCs関連遺伝子の治療予測マーカーとしての意義について今後検討していく。具体的には2グループ間に対してmRNA, タンパク解析で発現に差を認める因子を同定し、これについて当院手術検体より作成する組織マイクロアレイを用いた組織免疫染色による検討を加えていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ALDH陽性細胞及び陰性細胞に対するmRNA、タンパク解析により、グループ間で発現に差を認める因子を同定し、これについて当院手術検体より作成する組織マイクロアレイを用いた解析を加えて行く計画をしている。また、ヒト組織を用いて同定された因子の発現解析を予定している。現在細胞検体およびヒト組織のマイクロアレイブロックの作成過程途中であり、会計が平成26年度中に終了しなかったため、その予定額(約47万円)が残額として生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
現在作成している組織マイクロアレイ作成費(約47万円)及び免疫染色にかかる費用(抗体、研究試薬、研究材料等薬25万円)を繰り越した費用により支払予定である。
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