乳がんの他臓器への転移機構を解明することは、乳がん患者の予後改善につながると考えられる。上皮性がんの転移は大きく分けて、原発巣からのがん細胞の離脱と周辺組織・脈管系への浸潤、circulating tumor cells(あるいはdisseminated tumor cells)の生存の維持、二次腫瘍巣の形成・増殖という3つのステップから成り、遠隔臓器における二次腫瘍巣の形成および増殖(colonization)は、がん細胞の生存能力や周辺の微小環境に大きく依存している。本研究では、転移の最終ステップであるcolonizationに関わる分子機構を明らかにすることを目的とした。ヒト由来トリプルネガティブ乳がん細胞株およびHER2乳がん細胞株をマウス左心室内に注入することによって、乳がんの遠隔転移モデルを作製し、転移巣からRNAを抽出してRNA-seq解析を行った。転移巣におけるがん細胞由来と周辺細胞由来の双方の発現遺伝子について、原発巣における発現遺伝子と比較して解析を行い、がん細胞が転移先の組織に定着するのに重要な役割を果たす因子(転移ニッチ)の同定を試みた。それらの因子は転移がんの治療の標的となる可能性がある。
|