研究課題/領域番号 |
25462007
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
粕壁 隆 島根大学, 医学部, 教授 (50152658)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 癌 / 薬剤反応性 / シグナル伝達 / 発生・分化 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
我々は、白血病細胞の分化誘導剤として見出してきた物質が固形癌細胞に対しても有効な抗癌作用を示すことができるかどうかを検討している。我々は、植物成長制御因子として報告されていたcotylenin Aが白血病細胞に対する強い分化誘導活性を示すことを報告している。このcotylenin AとPI3K/Akt/mTORシグナルを標的とした癌分子標的薬剤との併用効果を検討してきた。なかでも、cotylenin AとmTOR阻害剤であるrapamycinの併用処理がヒト乳癌細胞MCF-7の増殖を相乗的に抑制できることを見出している。これまでに、これらの併用による増殖抑制効果には、cyclin G2の顕著な誘導およびrapamycinによって誘導されるAkt(Ser473)のリン酸化のcotylenin Aによる阻害が少なくても一部は関連すること見出している。 一方、最近、白血病細胞を用いてcotylenin Aと様々な分化誘導剤との併用効果を検索している中で、低濃度の三酸化ヒ素(arsenic trioxide, ATO)が前骨髄球性白血病細胞のcotylenin Aによる分化を顕著に促進することを見出した。そこで、この併用処理がヒト乳癌細胞に対して有効な抗癌作用を示すか検討した。その結果、cotylenin AはATOによるヒト乳癌細胞(MCF-7, MDA-MB-231)の増殖抑制を顕著に促進することを見出した。Cotylenin AとATOの併用処理による増殖抑制効果は、抗酸化剤N-acetyl-L-cysteineにより、部分的に消失した。さらに、cotylenin Aの増殖抑制効果はglutathione合成阻害剤存在下で増強した。これらの結果は、cotylenin Aと活性酸素(ROS)誘導剤との併用処理が、効果的な抗癌作用を示す可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度では、新たに分化誘導剤cotylenin Aと低濃度の三酸化ヒ素(arsenic trioxide, ATO)がヒト乳癌細胞(MCF-7, MDA-MB-231)の増殖を相乗的に抑制することを見出すことができた。さらに、これらの増殖抑制効果に重要な分子基盤についても解明しつつある。前骨髄球性白血病に有効な三酸化ヒ素(ATO)を固形がんへの応用には、固形がん細胞への有効濃度が白血病細胞と比較して高いことが問題になっていた。我々の今年度の発見は、白血病細胞の分化誘導剤cotylenin Aと併用することで、この問題が解決できる可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に得られた結果を基に、Cotylenin AとATOの併用処理による乳癌細胞の増殖抑制効果の分子メカニズムをさらに解明するするために、アポトーシスアレイ等を用いて詳細に検討する。また、ヒト乳癌細胞の移動能および浸潤能に対するcotylenin Aの効果をxCELLigence Real Time Cell Analyzerを用いて検討する。さらに、これまでに乳癌細胞を用いて明らかにしてきた新規分化誘導剤 cotylenin A と分子標的薬による顕著な増殖抑制効果が、膵臓癌のような難治性固形癌細胞でも見られるかどうかを検討する。
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