研究課題/領域番号 |
25462008
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(呉医療センター臨床研究部) |
研究代表者 |
尾上 隆司 独立行政法人国立病院機構(呉医療センター臨床研究部), その他部局等, 研究室長 (90549809)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腫瘍免疫 / 免疫逃避 / 内皮細胞 / 微小環境 / クロストーク |
研究概要 |
現在,分子標的薬の開発や放射線診断治療技術の進歩により,癌治療において良好な予後が得られるようになってきた。しかし進行癌,特に消化器系固形癌においては,これらの治療に抵抗性で治療に難渋する場合も多い。その背景には癌の持つ免疫逃避機構が関与していると考えられている。この免疫逃避機構構築には腫瘍内皮細胞を含む癌微小環境が大きく影響していると考えられる。我々は,これまである種の内皮細胞が抗原提示能を持ち免疫を抑制することを明らかにしてきた。このことから,腫瘍内皮細胞も癌微小環境において同様に種々の細胞とのクロストークを介して,癌免疫の抑制に作用している可能性を考えた。 本年度は,B16細胞を用いた担癌マウスモデル及び,磁気ソーティングを用いた腫瘍内皮細胞の分離法を確立した。さらに腫瘍内皮細胞のフェノタイプ解析およびin vitroでの機能解析を行った。血管内皮マーカーであるCD31分子に対する抗体を用いて腫瘍内皮細胞を分離しフェノタイプを解析したところ、PD-L1、TLR-4の表出を認め免疫抑制性の特徴を持つことが確認された。さらに分離したCD31+腫瘍血管内皮細胞とT細胞を共培養し,T細胞をCD3/CD28抗体で刺激した実験では,CD31+腫瘍血管内皮細胞にT細胞増殖抑制効果のあることが確認された。B16癌細胞を用いたin vitro実験では、B16細胞一次培養上清を用いbEnd.3内皮細胞を二次培養したところ,二次培養上清によるT細胞反応抑制作用を確認した。さらに二次培養中に炎症メディエーターとして知られているHMGB1に対する中和抗体を添加・培養して得られた上清は,T細胞反応抑制作用を消失していた。以上の結果より腫瘍と内皮細胞のHMGB1を介したクロストークにより腫瘍内皮細胞が免疫抑制能を獲得している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度は,①担癌マウスモデルおよび腫瘍内血管内皮細胞採取・培養法の確立とin vitroでの免疫学的特性の解析、②癌微小環境下での腫瘍内血管内皮細胞と免疫担当細胞間クロストークによる免疫抑制機構の解明を目的とした。この内、①ではB16細胞を用いた担癌マウスモデルの確立および磁気ソーティングを用いた腫瘍内皮細胞の分離法の確立、②では細胞培養系を用いたin vitroでの細胞間シグナルの解析を行い、上記の結果を得た。 現在、腫瘍内皮細胞の分離効率をさらに改善するため、ハイパフォーマンスセルソーターを用いた細胞分離の確立を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度はRNAマイクロアレイを用いた腫瘍内皮細胞表現分子の網羅的解析を行う。またbEnd.3内皮細胞株にHMGB1を作用させ同様に解析を行い,分子シグナル経路の探索を行う。さらにH25年度に確立した培養系において,ELISA/ウェスタンブロットを用いて,PGE2・TGF-βなどの上清中免疫抑制性メディエーターの解析を行う。また担癌マウスを用い,in vitroと同様にHMGB1,PD-L1,TLR-4,Tim-3阻害薬またはチロシンキナーゼ阻害薬投与などを行い,その抗腫瘍効果をin vivoで検討する。さらに臨床研究として腫瘍内血管内皮細胞が免疫抑制能を持ち,抗腫瘍免疫を抑制している仮説を臨床検体を用いて検討する。腫瘍内CD105、CD31を染色したmicrovessel density (MVD)および免疫抑制分子またはメディエータであるPD-L1,HMGB1,Tim-3を免疫染色またはRT-PCRにて定量し,臨床予後と比較検討を行う。 課題として、腫瘍内皮細胞の分離効率をさらに改善する必要があり,ハイパフォーマンスセルソーターを用いた細胞分離を行う。ハイパフォーマンスセルソーターは当施設に設置されていないため,同機器を設置している連携研究者の所属する広島大学ライフサイエンス施設において,研究協力者と協同で行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の実験計画の中で,腫瘍内皮細胞の解析はその中心をなすものである。本年度の研究により,腫瘍内皮細胞は癌免疫反応を担う細胞を抑制する能力をもつことが確認された。そこで分離した腫瘍内皮細胞のRNAを抽出し,RNAマイクロアレイにより網羅的に検索する予定で,当該予算を用意していた。しかし癌内皮細胞の抽出においてRNAの回収率が不良であったため,現在ハイパフォーマンスセルソーターを用いたより高効率の細胞分離法を確立中である。 現在,癌内皮細胞の回収・分離効率を改善するべく実験を継続している。H26年度中に十分量のRNA抽出が可能になる見込みであり,次年度使用額は上記マイクロアレイ解析に用いる予定である。
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