現在、医療技術・創薬の進歩により、癌の治療においては良好な予後が得られるようになってきたにもかかわらず、進行癌、特に消化器系固形癌においては、未だ予後不良であるケースもある。免疫システムは癌の治療に大きく関わっているとされるが、癌の持つ免疫逃避機構が治療不応に関与していると考えられる。我々はこれまで、癌微小環境を形成する大きな要素である腫瘍内皮細胞が免疫抑制能を持ち、T細胞を制御していることをin vitroでの連続培養系で明らかにした。またB16メラノーマ細胞を接種した担癌マウスモデルにおいて、抗HMGB1抗体の局所注入により腫瘍進展が抑制されることから、腫瘍と内皮細胞のHMGB1を介したクロストークにより腫瘍内皮細胞が免疫抑制能を獲得している可能性を明らかにした。 本年度は、前年度に明らかとなった腫瘍内皮細胞から分泌される液性抑制因子の解析を行った。エキソソームがその機序に関与していると考え、上清中からのエキソソームの分離を行った。まずB16メラノーマ細胞培養上清よりエキソソームを分離し、ビーズを用いたフローサイトでのフェノタイプ解析を行ったところ、アポトーシス誘導分子であるPD-L1の表出を認めた。さらに分離エキソソームはin vitroでT細胞増殖抑制能を持ち、その抑制能は高腫瘍活性をもつB16-F10細胞株由来エキソソームの方が、低腫瘍活性であるB16-F1細胞株由来エキソソームより高かった。さらに腫瘍内皮細胞エキソソームのin vitroモデルとして、B16-F10メラノーマ培養上清で培養したbEnd.3内皮細胞株の培養上清から抽出したエキソソームを用いた免疫抑制試験を行い、T細胞増殖抑制能を確認した。この結果から、腫瘍のみならず、腫瘍内皮細胞から分泌されるエキソソームにも免疫抑制能があり、腫瘍の免疫逃避のメカニズムの一つとなっていることが示唆された。
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