研究課題/領域番号 |
25462010
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森 隆弘 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00323030)
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研究分担者 |
千葉 奈津子 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (50361192)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | がん抑制遺伝子 / 食道扁平上皮癌 |
研究実績の概要 |
食道癌におけるBAP1遺伝子変異およびBAP1遺伝子を含む染色体領域の欠失を初めて確認した。特にアミノ酸置換を伴うF170I変異を確認した例ではMLPA法によりBAP1遺伝子座が広汎にLOHを来していることが確認され、両alleleとも不活性化していることが示された。転写関連因子であるHCF1を基質として脱ユビキチン化能を評価したところ、本変異例ではwildに比べて有意に低下していることが確認された。自己脱ユビキチン化能も評価し、同様に低下していることを確認した。BAP1の自己脱ユビキチン化はBAP1内の核内移行シグナルのユビキチン化を来し、BAP1を細胞質へ移送することが報告されており、免疫染色法で評価し、wildでは核内に存在しているのに対し、F170Iは細胞質に存在していることが確認出来た。網羅的な遺伝子発現を調べると、wildとF170Iでは癌化経路に関係する遺伝子発現に有意な差が認められた。このように本変異により局在および機能的に喪失することが確認出来た。実際の切除標本において、免疫組織化学的解析を行った結果、食道扁平上皮癌の約10%にBAP1陰性例があることを確認した。それらには核および細胞質ともに陰性である例と核陰性だが細胞質強陽性の例があることを発見した。別の腫瘍での報告例から、核と細胞質陰性例はbiallelic lossである可能性が示唆される。一方で、核陰性で細胞質陽性例では本例のようなLOH+脱ユビキチン化能低下を来す変異例であることが示唆された。最近の報告例からBAP1の脱ユビキチン化能を制御するUBE2Oの機能が報告され、公開されている食道癌での遺伝子変異からはUBE2Oの遺伝子変異もあることから、BAP1遺伝子変異のみならず、BAP1脱ユビキチン化能を制御する遺伝子群の異常も発癌に関係している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した結果を得られており、英文論文として科学誌に投稿することが出来た。germline変異については下記のように東北メディカルメガバンクとの共同研究に着手した。このようにいずれの面でも進展が見られており、ほぼ予定通りに進行しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はBAP1の脱ユビキチン化を促進しるような化合物の探索研究を開始する。このために、現在、本研究で実際の腫瘍での変異である事を確認した変異F170Iを発現誘導可能なプロモーター下に細胞に導入する(現在、作成中)。これを樹立し、化合物スクリーニングに進む予定である。 一方、germlineで確認出来た遺伝子変異については現在、その病的な意義について検討中である。今年度には東北メディカルメガバンクとの共同研究を提案し受理された。関連する倫理委員会でも承認を受けたため、今後の研究結果が待たれるところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述したように、BAP1の脱ユビキチン化を促進しるような化合物の探索研究を開始するために、現在、本研究で実際の腫瘍での変異である事を確認した変異F170Iを発現誘導可能なプロモーター下に細胞に導入しているが、現在までのところ、コロニーが上手く選択されておらずに、このために化合物スクリーニングに移行できていない。また、東北メディカルメガバンクとの共同研究を提案し受理されたが、倫理委員会でも承認に時間がかかったため、今年度は実質的に開始できなかった。このために当初予定額との差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上述したように、BAP1の脱ユビキチン化を促進しるような化合物の探索研究を開始するために、変異F170Iを発現誘導可能なプロモーター下に導入した細胞を使用し、化合物スクリーニングを行う予定である。また、承認を受けた、東北メディカルメガバンクとの共同研究を開始する予定である。さらに、得られた結果を国際学会で報告する予定である。
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