研究実績の概要 |
胃切除術後の顕著な合併症は食欲低下、体重減少であるが、消化管ホルモンの分泌異常が原因の一つと考えられている。Ghrelinは食欲を刺激する消化管ホルモンであり胃に分泌細胞の多くが存在する。またMotilinは十二指腸から上部空腸に分布するホルモンであり、空腹期の伝播性強収縮運動(Interdigestive migrating motor contraction; IMC)を引き起こす。今回の研究では胃切除において迷走神経を温存すると消化管ホルモン(ghrelin, motilin)分泌障害を軽減するか、またホルモン投与による反応に変化があるかを検討する。所属施設の移動により、大動物での実験系を構築できなかったため、ジャコウネズミ属のスンクス(げっ歯類ではmotilinが存在しない)を用いて、force transducerを胃または十二指腸に逢着し、術後意識化無拘束に実験を行った。幹迷切は腹部食道の周囲組織を剥離、切離し行った。 スンクスの消化管運動はイヌやヒトと同じように空腹期収縮は90-100分間隔で生じ、液体食(0.3ml)の胃内投与によって連続する律動的収縮である食後期収縮に移行した。幹迷切モデルでは収縮は不規則となり、空腹期のphase Iが観察されず、不規則な収縮が持続した。Motilin agonistであるエリスロマイシン(1mg/kg)の腹腔内投与によって、投与後平均5分で胃または十二指腸に強収縮運動を惹起した。幹迷切モデルではエリスロマイシンを投与しても反応は確認されなかった。Ghrelinに対する作用はghrelin分泌刺激作用のある立君子湯を用いた(Yanai M, Mochiki E, J Gastoenterol 2013)。立君子湯を胃内に投与すると(6mg/100g)、投与後平均11分で十二指腸に収縮を認めた(発現頻度:87.5%)。 スンクスによる胃切除術は技術的には可能であったが、食事摂取制限の調節が難しく、収縮の測定はできなかった。
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