研究実績の概要 |
我々は、胃癌細胞の幹細胞性因子を探索する過程でCD24の胃癌細胞における特異な発現様式を見出し、その機能解析を行った。まず、当科での胃癌手術症例119例を対象とした免疫組織学解析を行ったところ、CD24発現は進行度、腫瘍深達度、リンパ節転移、脈管転移とそれぞれ相関し、CD24は胃癌の予後不良因子となることを明らかにした。つぎに、胃癌患者の腹水中から採取した胃癌細胞およびヒト胃癌細胞株を用いて複数の癌種で知られる癌幹細胞マーカーの発現を検討したところ、CD44, CD133については比較的均一な発現様式であったが、CD24は陽性細胞と陰性細胞の混在型あるいは陰性型に分類され、CD24は胃癌細胞の多様性を規定する因子の1つである可能性を見出した。そこでCD24の発現の有無でソーティングを行いそれぞれの特性について比較したところ、CD24陽性細胞は細胞接着・運動・浸潤能が高いことが明らかとなった。さらに、CD24陽性細胞に対しCD24発現抑制を行ったところ、浸潤能は維持されず、CD24は胃癌細胞の浸潤能維持に必須の因子であると考えられた。CD24発現誘導機序については、幹細胞性との関連性から低酸素曝露による影響を着想し、胃癌細胞を低酸素環境(O2 1%, 48時間)においたところ、CD24陽性細胞は62%から78.7%に増加し(p<0.05)、胃癌細胞の浸潤能も約1.5倍に亢進した(p<0.05)。低酸素誘導性転写因子のHIF-1αおよびHIF-2αの発現抑制では、低酸素によるCD24の発現誘導が打ち消された。また、当科胃癌手術症例の免疫学的解析でも、CD24とHIF-1αおよびHIF-2αの発現は有意な相関関係にあった。 以上のことより、今回の研究においてCD24は胃癌の浸潤・転移を促進させる重要な因子の1つであり、その発現調節に低酸素環境下でのHIFsが寄与していることを明らかにした。
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