近年様々な悪性腫瘍に対して分子標的治療薬が臨床応用されている。本邦を含めて世界的に増加傾向にある大腸癌の予後規定因子は血行性転移であり、多種類の血管新生増殖因子が大きな役割を担っている。実臨床では 切除不能大腸癌症例に対してVEGF(vascular endothelial growth factor) 因子を標的とした抗体療法が予後の改善に働いているものの、根治には至っておらず、新規治療法の開発が望まれている。 今回検討を行ったProkineticin1(PROK1) は、これまで当科において高PROK1 蛋白質発現型細胞株を用いた検討で血行性転移を促進すること、他施設からも膵癌、前立腺癌、甲状腺癌、神経膠芽腫などにおいても悪性度と相関する報告が行われ、非常に注目されている因子である。 まず当科独自に抗PROK1抗体を作製後、大腸癌切除症例の原発巣におけるPROK1蛋白質発現と臨床病理学的検討を行ったところ、リンパ節転移や血行性転移との相関が認められたと共に再発率も有意に高く、さらにCOXの比例ハザードモデルを用いた多変量解析において独立した予後規定因子であることが確認された。 さらにヒト大腸癌細胞において血管新生増殖因子の中から重要度が高いと注目されているVEGF因子とPROK1因子の2因子について解析を行ったところ、単独の抗体療法よりも両因子の抗体を同時に投与する方が血管新生能や腫瘍形成能を効果的に抑制することが高いことが見出された。すなわちPROK1因子とVEGF因子の両血管新生増殖因子を同時に治療のターゲットにすることの有用性が示され、大腸癌の新規治療法として大いに期待される。
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