研究課題/領域番号 |
25462061
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
後藤 信治 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 助教 (50186889)
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研究分担者 |
川勝 美穂 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 客員研究員 (20398150)
李 桃生 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50379997)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / GSTπ / 核局在 / 大腸がん |
研究概要 |
ストレス暴露時にグルタチオンS-トランスフェラーゼπ(GSTπ)が、核局在化する細胞こそが真の大腸がん幹細胞であり、その細胞表面に発現する分子は新たながん幹細胞マーカーとして有効であるという仮説を立て、それを実証することが、本研究の目的である。平成25年度は、大腸がん株化細胞から、ストレス時にGSTπが核局在化する細胞を単離し、その細胞のストレス抵抗性や造腫瘍性を調べることが、当初の計画であった。 ストレス暴露時にGSTπが核局在化する細胞の単離 血管が乏しいがん組織では、低酸素やグルコース飢餓など、ストレスの多い微小環境が形成されているが、そのような環境でも生存・増殖する細胞は、幹細胞である可能性が高い。そこで、大腸がん株化細胞のHCT8(親株), (CD44+)、(CD44-) (CD44+/CD133-), (CD44+/CD133+)の各細胞を牛胎児血清飢餓、或いは低グルコースに暴露したところ、(CD44+/CD133+)細胞からのみ、ストレス下でも増殖する数種類のクローンを得た。これらの細胞のGSTπの発現量及び酵素活性は、(CD44+/CD133+)母集団と有意な差は認められなかったが、細胞免疫染色法でGSTπの細胞内局在を観察したところ、全ての細胞でGSTπの核局在が観察されたので、(CD44+/CD133+GSTnp)とした。 抗がん剤、酸化剤、放射線感受性の評価 抗がん剤としてシスプラチンとドキソルビシンを、酸化剤として過酸化水素を用い、種々の濃度の薬剤、酸化剤を細胞に投与した後、細胞の生存率をMTT assayで評価した。また、放射線感受性は、細胞に1Gy から10Gyのγ線を線量率1Gy/minで照射し、colony assayで評価した。(CD44+/CD133+GSTnp)細胞群は、元の細胞群の中で最も抵抗性を示す(CD44+/CD133+)と同等かそれ以上の抵抗性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ストレスの多い微小環境下でも生存・増殖する細胞は、幹細胞である可能性が高いと考え、大腸がん株化細胞を牛胎児血清飢餓、低グルコース下で培養し、ストレス下でも増殖するクローンを得た。これらの細胞は、GSTπの核局在が観察され、当初の予想通りの成果が得られた。また、これらの細胞のストレス抵抗性を検討したところ、特に、シスプラチンやドキソルビシンといった抗がん剤に対して抵抗性を示し、当初の仮説に沿った結果が得られた。 また、平成25年度に、分離した(CD44+/CD133+GSTnp)細胞をマウスに移植し造腫瘍性や転移性などを試験する予定であったが、牛胎児血清飢餓、或いは低グルコース下で増殖する細胞を分離し、安定に増殖させる段階で予定外の時間がかかり、未実施となった。しかし、26年度の早い段階で、造腫瘍性及び転移性試験を実施する予定なので、遅れは最小限であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度以降は、単離した(CD44+/CD133+GSTnp)をマウスに移植し、造腫瘍性並びに転移性の試験を行った後、これらの細胞の網羅的解析を行い、細胞表面に発現している分子の特性を明らかにする。次に、別の3種類の大腸がん株化細胞から、(CD44+/CD133+GSTnp)と細胞表面分子の発現パターンが一致する細胞を単離し、GSTπの発現量、活性、細胞内局在や造腫瘍性及びストレス抵抗性について検討する。その検証が終了した後、これらの細胞のGSTπ発現をRNA干渉法(RNAi)によって抑制した場合、がん幹細胞マーカーの発現量、造腫瘍性及びストレス抵抗性がどのように変化するかを調べ、がん幹細胞におけるGSTπの役割を明らかにする。具体的な方法は以下の通りである。 Becton Dickinson社の バイオイメージアナライザーを用いて、242種類のヒト細胞表面分子について網羅的に解析する。この方法が不適切の場合には、同様に網羅的な解析ができる CAST (Escherichia coli ampicillin secretion trap)法に切り替える。 網羅的解析で明らかにした細胞表面分子の別の大腸がん株化細胞における発現率を、Flow cytometryで調べる。また、細胞表面分子に対する抗体を用いて、Magnetic cell sorting法により細胞を単離し、以下の実験に用いる。上記の方法で単離が難しい場合は、Flow cytometry法で細胞を単離する。 既報に従い、RNAi処理により、がん幹細胞でのGSTπ発現の抑制を図る。GSTπ発現が抑制されたがん幹細胞の生物学特性の変化を、がん幹細胞マーカーの発現量、造腫瘍能や抗がん剤、酸化剤、放射線に対する感受性などを解析して評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度実施予定の動物実験を26年度実施に変更したため、次年度への繰越金が生じた。 26年度前期に繰越金を使って動物実験を予定している。
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