研究課題/領域番号 |
25462062
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
石川 晋之 熊本大学, 医学部附属病院, 非常勤診療医師 (80419639)
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研究分担者 |
別府 透 熊本大学, 医学部附属病院, 教授 (70301372)
渡邊 雅之 熊本大学, 医学部附属病院, その他 (80254639)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スタチン / 大腸癌 / EZH2 / HDAC5 / p27 / MEK/ERK |
研究概要 |
大腸癌細胞株にスタチンを投与することで認められた抗腫瘍効果は、4種類のスタチンのうち、プラバスタチンには抗腫瘍効果が認められなかった。スタチンによるコレステロール合成経路の阻害はプラバスタチンでも認められていたため、スタチンの抗腫瘍効果はメバロン酸カスケードとは関連がないことが示唆された。Epigenetic moleculeをスクリーニングした結果、EZH2の発現抑制とHDAC5の発現低下が認められた。EZH2の発現抑制はp27の発現増強をもたらし、これにより増殖抑制効果が発揮されたものと考えられた。一方、EZH2のsiRNAを用いたところ、HDAC5の発現増強を認めたため、スタチンによるHDAC5の発現増加はEZH2発現低下によるfeed backであることが判明した。そこで、スタチンとclassII HDAC inhibitorを併用したところ、相乗的な抗腫瘍効果を認めた。さらに、大腸癌切除標本を使用し、EZH2の免疫染色を施行したところ、スタチン非内服例とプラバスタチン内服例では全体的にEZH2の発現増強とp27の発現低下を認めたが、他のスタチン内服例ではEZH2が発現している部位ではp27の発現低下を認め、EZH2の発現低下部位ではp27の発現増強を認め、実験結果が臨床検体で裏付けされた。これらの結果は論文に掲載された。 スタチンのEZH2発現抑制メカニズムは不明であるが、大腸癌細胞株のK-rasの変異に関わらず、スタチンの抗腫瘍効果が認められることから、K-rasの下流シグナルに影響していることが考えられた。そこで、MEK inhibitorである、U0126を投与したところ、スタチン投与と同様に、p-ERK、EZH2の発現低下とp27の発現増強を認めた。つまり、スタチンは、MEK inhibitorとしての効果を有した薬剤であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結果が一流欧文誌に掲載されたことから、非常に際立った成果であると評価する。また、スタチンの持つ抗腫瘍効果のメカニズムがさらに詳細に解明されつつある点からも進展があった。ただ、他の計画として上げた、他の癌種での検討、臨床試験への応用、スタチンと化学療法剤との組み合わせの検討については遅れている点から、評価は②とした。
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今後の研究の推進方策 |
スタチンがどのようにして抗腫瘍効果を発揮するのか詳細なメカニズムの解明が必要である。現在、MEK/ERK経路との関連が示唆されているが、大腸癌の増殖には他の経路も存在する。その代表がWntシグナルとAkt/PKB経路である。Wntのシグナルに関しては、スタチン投与前後で核内のbeta-catenin移行に変化がないか、細胞免疫染色や、細胞質と核内タンパク分離によるWestern blottingを行うことで解析がする。Akt/PKB経路に関しても、スタチン投与前後で、このシグナル伝達経路の分子の発現を確認することで影響を検討する。 他癌腫に関しては、肝臓癌をターゲットにすることにしている。まずは臨床データからスタチン内服の有無と再発(肝癌は複数回手術を行う症例が多い)との間に関連がないかデータ解析する。 臨床試験としては2種類を考えている。一つは補助化学療法である。Pravastatinに効果がないことが明らかであるため、他のスタチンを使用する。大腸癌補助療法のキードラッグである5FUとスタチンとの間には相乗効果は認められていないが、上乗せ効果は期待できる。そこで、5FU系抗癌剤単独群とスタチン併用群の2群間での比較となる。問題点は、スタチンの投与期間など未知な因子があるため、これらをどのように考え、デザインするかである。もう一つは、切除不能再発大腸癌に対するスタチンとHDAC inhibitorとの併用である。HDAC inhibitorの安全性が確認されていないため、治験としてのしかもphaseIからの検討が必要である。 各種化学療法剤との組み合わせとしては、oxaliplatin、CPT-11を考えている。また、HDAC inhibitorとの併用で相乗効果があることも確認済みであるため、同様の効果が発揮されるか、growth assayで検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入を予定していた消耗品について、 当初想定していた価格より安価にて購入することができ、また、医局保管のものを使用することができたため。 スタチンの抗腫瘍効果発揮のメカニズム解明を目的とし、細胞免疫染色や、細胞質と核内タンパク分離によるWestern blottingを行うため、それらに必要となる試薬等の消耗品費に充てる。また、関係書類の整理、保管及び研究成果発表のためのデータ収集、資料 作成の補助をしてもらうための人件費も支出したいと考える。
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