研究概要 |
初年度は大腸癌悪性化に及ぼす因子探索のための基礎検討として,in vitro EMAST発生環境の構築を行った. 腫瘍の浸潤性獲得や原発巣からの離脱への関与が知られる重要ながん微小環境である低酸素に着目し,ヒト大腸癌細胞株SW620を0.1%の酸素濃度と通常酸素濃度とで培養し,EMASTを発生しうるかを検討した.低酸素下でのDNAミスマッチ修復 (MMR) 遺伝子のタンパクレベルの発現量の変化を一定期間ごとに7日まで調べたところ,MSH3は経時的に減少したのに対し,MLH1やMSH2は3日目以降ほぼ同程度のタンパク量を維持した.これらMMRタンパクの低酸素3日目に対する7日目のタンパク量はそれぞれ42, 73, 94%であった.長時間の低酸素培養はMSH3に偏ったタンパク量の低下を引き起こしたことから,本条件下ではMMR機能の均衡が崩れEMAST発生が誘発される可能性が高いと考えられた.そこで,SW620を低酸素もしくは通常酸素濃度で7日間培養した後,限界希釈法により得られたクローン (低酸素, 37クローン; 通常酸素, 27クローン) について4塩基リピートのマイクロサテライトマーカー(MYCL1, L17686, UT5320, D9S242, D20S82)を中心に変異の有無を調べた.その結果,低酸素クローンのうち5クローンがいずれかの4塩基リピートに変異を示したのに対し,1塩基リピート(BAT26)の変異は示さなかったことから,EMASTと判定された.残りのクローンにも1塩基リピートの変異は認められなかったことから,今回の検討した低酸素条件ではEMAST以外のMSIは誘導されないと考えられた.また,通常酸素クローンではすべてのマーカーに変異は認められなかった.これらの結果を踏まえて,7日間の低酸素培養をSW620を用いたin vitro EMAST発生条件とした.
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