研究実績の概要 |
本研究の目的は、肝細胞癌の発癌機構や悪性形質獲得における脂肪酸合成・代謝経路の関与を明らかにすることである。 以前までの研究で、B・C型肝炎を背景にもたない肝細胞癌、いわゆるNASH由来肝細胞癌、の組織には、周囲非癌部に比べてpalmitic acid (PA、糖から生成される最初の脂肪酸)が少なく、逆にPAに炭素数を2つ伸長する酵素Elovl -6によって生成されるstearic acid (SA)が増加していること、を質量顕微鏡等の方法で明らかにした。また、癌組織中にはPAからSAを作る酵素Elovl-6蛋白が高発現していることも明らかにした。 PAが小胞体(ER)ストレスを起こすことより、NASH由来肝細胞癌はElovl-6を高発現することで(Metabolic syndrome状態から過剰に供給される)脂肪酸PAによるER stressを回避している、との仮説をたて、以下の細胞実験をおこなった。肝細胞癌cell line 培養液中に種々の濃度のPA, SAを添加し、ER stress marker蛋白のmRNA、蛋白levelを調べた。また、この状況にElovl-6 siRNAによるknock-downがどう影響するか、を調べた。当初はSAにはER stressを起こす能力は低いと考えていた。しかし、予想に反し、0.8mMの濃度で培養液にSAを添加した場合、同濃度のPAほどではないが、ER stressをおこすことが判明した。そこで、合計濃度0.8mMでPA:SA=2:6、PA:SA=6:2、の培養液添加実験を行ったところ、どちらの組み合わせもSA 0.8mMよりもER stressが低いこと、PA/SA比が低いほうがstressが低いことが判明した。また、Elovl-6 をknockdownするとER stressが増強することを確認した。 よって、NASH由来肝細胞癌は、過剰供給されるPAによるER stress回避のために、Elovl-6を使うことで適切なPA/SA比を作って生存しやすい環境にしていることが想定された。 これらの結果を英語論文として作成し、現在投稿する直前の状況である。
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