研究課題
肝細胞癌は肝癌の95%を占め、全癌死の10%を占める主な癌死因となっている。最近では生活習慣病患者に伴う肝発癌の増加が指摘されており、さらなる肝細胞癌進展の機構解明ひいては新規治療戦略の構築が必要である。TGF-β-Smadシグナルは癌細胞に対しては上皮間葉転換(EMT)を誘導し、癌の浸潤・転移に関与する。申請者らのこれまでの実験結果に基づき、腫瘍抑制シグナルHippo pathway の構成成分TAZを抑制することで肝細胞癌の進展が抑制される、という仮説を立てた。肝細胞癌におけるTAZの免疫染色において約半数でTAZの発現を認め、また癌部の凍結標本から抽出したRNAにおけるTAZmRNAレベルの高発現が予後不良因子であることを確認している。In vitroの実験においては、TAZ高発現肝細胞癌株に対してsiRNAを用いたTAZの発現抑制によって細胞増殖能が低下し、western blotによりAktのリン酸化が抑制された。さらにTAZ低発現肝細胞癌株にTAZを強制発現させることでAktのリン酸化が促進されることも確認した。TAZの化学療法抵抗性における役割を検討したところ、抗がん剤5FU投与条件下においてTAZを発現抑制したところ、予想に反して化学療法抵抗性が増す現象を確認した。この化学療法抵抗性の増大に関与する分子機構については、TAZの発現低下に伴ってHippo-pathwayのもうひとつの構成成分でありYAPが発現誘導されており、この化学療法抵抗性はTAZ/YAPのdouble knockdownによって改善される結果を得ている。すなわち、TAZはPI3K/Akt pathwayを介して肝細胞癌の増殖や予後不良に関与している可能性が示唆されたが、TAZとYAPは相補的な関係を有し、肝細胞癌の治療戦略においてはTAZ/YAPともに治療ターゲットにすべきと考察された。
すべて 2015
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