心臓手術に使用する人工心肺装置は、現在国内外の95%以上の施設が、人工心肺装置内の静脈血貯血槽が大気に開放された開放回路を採用している。開放回路は、体外循環血液が貯血槽内で大気に触れるため、血球成分が障害を受け、炎症性物質が活性化され、生体適合性に問題がある可能性が指摘されてきた。当施設は、閉鎖回路の有用性を認識し、1999年から心臓手術で導入した実績を有する。臨床検体を使用した本研究では、閉鎖回路の有用性を遺伝子・分子レベルでの解析で明らかにし、人工心肺装置の技術向上と患者予後の改善を目指すことを目的とする。 心臓手術で使用される人工心肺が免疫系に及ぼす影響に関しては、分子細胞レベルで解析した研究が少ない。これまで、人工心肺回路使用時の免疫応答・炎症反応の推移を解析する基礎実験を開始し、ミルテニ-バイオテク社のautoMACS Pro Separator を用いて、実際の人工心肺回路使用前・使用後の患者由来の全血サンプルから、CD14+単球・CD15+好中球の精製を98%以上の純度レベルで抽出することに成功した。心臓血管外科・体外循環の研究領域において、磁気細胞分離装置を使用して、各免疫細動を抽出した研究報告はなく、本邦で初めて本実験モデルを確立した。 H27年5月から当大学の倫理委員会の承認の元、本邦で初めて、開放回路・閉鎖回路の前向き二重盲検振分け試験を開始した(UMIN ID:R000022145)。H28年4月をもって、予定症例数である24例からの試料採取を終了した。H28年5月以降、採取した好中球・単球由来のRNAを使用して、DNAマイクロアレイ法による網羅的遺伝子発現解析・定量的RT-PCRを行い、2群間の炎症反応の相違を多角的に検証する予定である。
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