研究課題
半月弁形成には沿軸中胚葉を起源とする心内皮由来細胞、神経堤細胞、二次心臓領域由来細胞が関与しているといわれている。神経堤細胞は以前より心臓神経堤細胞の関与が言われていたが、今年度は我々が発見した前耳胞神経堤細胞(Nat commun2012:3:1267)の半月弁を中心とした心血管系への分布と役割について検討した。前耳胞神経堤は心臓を栄養する冠動脈中隔枝に分布しているが、半月弁及び鰓弓動脈の形態への関与は不明であった。ニワトリ胚の神経堤部位を微小メスで切除したところ心臓神経堤切除では、主に総動脈幹遺残と様々な大血管系の異常を認めた。前耳胞神経堤切除胚では両大血管右室起始と心室中隔を認めたが、大動脈弁は正常の3弁で大血管系も正常であった。ウズラ-ニワトリ神経堤移植キメラ胚を作成し、免疫染色切片より弁を3D構築した。心臓神経堤移植キメラでは大動脈右尖弁の先端と肺動脈弁3弁の弁尖にウズラ神経堤細胞を認めた。一方、前耳胞神経堤移植キメラでは大動脈弁3弁と肺動脈弁3弁の弁尖にウズラ神経堤細胞を認めた。このことより、大動脈弁弁尖の形成には前耳胞神経堤細胞が主に関わることが推測された。蛍光ラベル実験による心臓神経堤細胞と前耳胞神経堤細胞の遊走速度と心流出路での検討では、前耳胞神経堤細胞の方が先に流出路へ遊走していた。心臓神経堤細胞はcircumpharyngeal archに一度集結してから心臓内に遊走すると提唱されているが、本研究により神経管から遊走する心臓神経堤細胞は遠回りせずに鰓弓から流出路内に遊走すると考えられた。さらに、半月弁形成に上記3つの細胞以外の細胞群が遊走することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、半月弁を構成する細胞成分の起源とその分布を明らかにし、弁における頭部神経堤のふるまいを検討して半月弁の構成機構を明らかにすることである。さらに頭部神経堤細胞とエンドセリンシグナルを中心にその役割を解析検討することで、二弁性大動脈弁の発生メカニズムを明らかにして頭部神経堤細胞の特性を明らかにすることである。前耳胞神経堤細胞の半月弁を中心とした心血管系への分布と役割について、様々な部位の神経堤切除実験により心臓神経堤切除では主に総動脈幹遺残と様々な大血管系の異常を認めた。前耳胞神経堤切除胚では両大血管右室起始と心室中隔を認めており、大動脈弁は正常の3弁で大血管系の異常も認められなかったが、サンプル数をさらに増やして確認している。ウズラ-ニワトリ神経堤移植キメラによる半月弁の3D構築したところ、心臓神経堤細胞と前耳胞神経堤細胞では大動脈弁での分布が異なっていた。蛍光色素ラベル実験で、前耳胞神経堤細胞が心臓神経堤細胞よりも早く心流出路内に侵入していることを確認できたが、心流出路内での分布が異なっていた。この点はサンプル数を増やして確認をとる必要がある。沿軸中胚葉に蛍光ラベルを実施し流出路への関与は不明瞭な結果であったためさらにサンプル数を増やし、神経堤細胞と沿軸中胚葉、及び神経堤細胞と二次心臓領域細胞の分布を確認する必要がある。マウス神経堤マーカーのWnt1-creマウスの交配がうまく進まなかったためマウスによる検討が実施できなかった。半月弁構成細胞を更に検討する必要があるが、まったく新規の細胞群が半月弁に遊走侵入していることが判明したため次年度はこの点についての検討が必要と考えられる。
1)半月弁における神経堤細胞と沿軸中胚葉細胞の分布を検討する必要があるため、ウズラ-ニワトリ沿軸中胚葉及び神経堤移植キメラ作成、蛍光ラベル実験を実施すること。2)二次心臓領域と神経堤細胞の半月弁における分布の検討。以上の課題は、心臓流出路及び右心室の形成メカニズムを考える上で重要な示唆を与えるものである。3)マウス神経堤細胞マーカーWnt1-creマウスを用いた半月弁での神経堤細胞の分布検討をするためWnt1-creマウスを増やすこと。4)エンドセリン関連マウスの半月弁の検討をするためこれらマウスを増やすこと。5)さらに今年度発見した新規の細胞群の半月弁での役割を検討することが必要であるため、ラベル実験、キメラ実験さらに関連因子の検討が必要である。以上の実験で半月弁に分布する細胞群の分布状況を把握する。5)半月弁内における各細胞群で働く因子、二弁性大動脈弁を誘導する既知の各因子を検討する。ほかに半月弁内での神経堤細胞で働く因子を検出するためFluidigmを用いて、神経堤細胞1個の遺伝子解析を予定している。
今年度は経費のかかるマウス計画が進まなかったため。次年度は遺伝子組換えしたマウスの系統を数種使うためその経費にあてる計画である。
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