近年、メタボリック症候群における内臓脂肪が炎症を惹起し、動脈硬化の進展や心血管系イベントの発生に関与することが指摘されている。動脈硬化の発症にレニン-アンジオテンシン系(RA系)が関与していることは良く知られているが、大動脈瘤の発症とAngⅡ受容体の役割は報告が少なく、加えて動脈瘤発症に動脈瘤周囲の脂肪組織のAngⅡ受容体が関与するか否かを検討した報告はない。そこで本研究では、大動脈周囲脂肪組織のアンジオテンシンⅡ(AngⅡ)1型(AT1a)受容体が大動脈瘤の発症に及ぼす影響を検討した。 生後8週齢のApoE KOマウスの腹部大動脈周囲にApoE KO脂肪を移植した後、高脂肪(1.25%コレステロール)食を負荷し、AngⅡ(1000 ng/kg/min)を28日間投与することにより、約8割の頻度で腹部大動脈瘤の発症を認めた。しかしながら、ApoE KOマウスの腹部大動脈周囲ににApoE/AT1a KO脂肪を移植したモデルでは、腹部大動脈瘤の発症が有意に低下していた。一方で、ApoE/AT1a KOマウスの腹部大動脈周囲にApoE/AT1a KO脂肪を移植したモデルでは腹部大動脈瘤の発症は殆ど認められなかったのに対し、ApoE/AT1a KOマウスの腹部大動脈周囲にApoE KO脂肪を移植したモデルでは腹部大動脈瘤の発症が有意に増加していた。これらの表現形の違いは、移植したAT1a受容体遺伝子欠損脂肪組織における炎症性サイトカイン等の発現低下と関連していた。今後はさらなる詳細なメカニズムの解明を目指して検討を加えて行く予定である。 本研究により、大動脈瘤発症における脂肪組織のAngⅡ受容体の役割が明らかになれば、RA系をターゲットとした大動脈瘤発症抑制治療への期待がさらに広がり、手術適応『前段階』の大動脈瘤患者の治療戦略を確立する上で大きな意義を持つものと期待される。
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