研究代表者は小口径人工血管の長期開存を得るためには、移植初期に内面に安定した薄いフィブリン膜が形成され、そのフィブリン膜が速やかに器質化・内皮化することが必要であることを示してきた(北海道医学雑誌 1991)。延伸ポリテトラフルオロエチレンの多孔質チューブ(ePTFEチューブ)は血流と接する面の結節間距離が60μmにすると、安定した薄いフィブリン膜が形成されることを見い出してきた。また、組織誘導性物質や細胞増殖性物質を共有結合固定した材料がin vitroで内皮化を促進するといった報告がみられ、以前の共同研究者はePTFEチューブの孔の内壁を含む全ての表面に組織誘導性物質と細胞増殖性物質を活性を失わせずに同時に共有結合する方法を発明した(特願平8-27829など)。研究代表者は細胞接着因子であるフィブロネクチンを同方法で共有結合固定したePTFEチューブを使用して動物実験を行い、イヌの頚動脈移植モデルで良好な開存性と修復治癒を得た(Surg Today. 2000)。しかし、人間に類似した血液凝固能を有するブタの頚動脈移植モデルでは修復治癒は良好であるが、移植初期の血栓閉塞が多くみられた(J Cardiovasc Surg. 2001)。これは、フィブロネクチンは細胞接着分子としてのみならず血液凝固に関与していることが原因と考えられた。以上を基にして、抗凝固性を有するグリコサミノグリカンであるヘパリンと細胞接着因子であるフィブロネクチンを同時にePTFEチューブに共有結合固定できれば、移植初期に血栓閉塞せずに良好な修復治癒が得られると考えた。今回、ヘパリンとフィブロネクチンそれぞれの共有結合固定条件の最適化まで行ったが、その後研究棟の移転などがあって、ヘパリンとフィブロネクチンの同時共有結合固定は行うことができなかった。今後研究施設を確保して、研究を進めていく予定である。
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